教授就任にあたって


予防歯科学講座  宮 崎 秀 夫
 初代堀井欣一教授の後任として、昨年12月1日付けで予防歯科学を担当することになりました。栄誉ある新潟大学で教育、研究、診療に携われますことは大変光栄なことであります。また、その責任の重大さには身の引き締まる思いであります。  私は昭和53年に九州歯科大学を卒業後、同大学大学院口腔衛生学専攻を経て、昭和57年から助手、講師、助教授として口腔衛生(本学の予防歯科とは呼び方が違うだけ)に携わってまいりました。
 大学院時代は、午前中は予診室での患者対応と予防歯科外来診療、午後は歯科学生、附属の歯科衛生学院生の実習ライター、時には講義も持たされる毎日を送りました。それでも何とか時間を見つけて「ヒト歯牙エナメル質へのフッ素取り込み」や「萌出直後のエナメル質成熟に及ぼすフッ素イオンの影響」などの実験を行いました。原子吸光、イオン電極を用い、深夜までSEMを覗いたものです。同時に、教室の基幹研究であった疫学も、フィールド調査からデータ集計、分析とパソコンなどさわれない時代に電卓手計算でやりました。ひとえに教室員の数が教授、講師、新卒助手2名と極めて少なかったせいであります。今思うと、短い期間に貴重な経験を色々させていただいた亡き前教授(九歯大)には大変感謝する次第であります。
 助手になって以降は歯周疾患有病を主とする口腔疾患の疫学研究を行ってきました。疾患の原因因子ができるだけ少ない集団を設定するするために発展途上地域にフィールドを求め、あるいは、できる限り多くの異なる社会背景の下でデータを収集するために海外調査研究を行ってきました。これまでに、韓国、台湾、香港、タイ、カンボジア、スリランカ等の諸国の研究者と共同研究を進めており、現在は、インドネシア大学歯学部予防歯科教室と共に、バリ島の慢性甲状腺腫流行地域における口腔健康調査を行っております。
 また、平成元年からはWHO本部やWHO協力センターの下で、グローバルオーラルデータバンクのデータ管理を行い、2年ごとに歯周疾患有病のデータブックを出版、各国関係機関に供給する仕事を引き受けております。これら国際交流を通して培われてきたネットワークの中で新たな研究テーマが生まれてきており、できるならばグローバルなリサーチを継続したいと思っています。新潟大学は海外の大学、研究機関との交流を積極的に推進しているとうかがっております。将来は、研究交流、協力のみならず、途上国、地域に対する保健医療協力をも含んだ国際口腔保健学のような新しい分野を展開することも可能かもしれません。
 ところで、予防歯科学の研究領域は1)歯科疾患の病因論に代表される基礎的研究の側面(齲蝕や歯周疾患の発症メカニズムの解明とその予防法の開発ー虫歯予防ワクチンのような)、2)実際の人間集団や社会の中で疾患や健康の成り立ちを詳細に観察して行く疫学的側面、3)地域や国レベルで展開する予防施策に必要な社会学的側面、4)個人口腔衛生教育、指導、管理を行う臨床予防学的側面と非常に幅広いものであります。さらに、予防歯科学は単に歯科疾患の発症防止を考えるのみならず、個人あるいは集団との係わりを通した全身的健康の保持増進の枠組の中で、積極的な口腔健康増進を考えなければなりません。
 こういった流れにあって、予防歯科学教室として「齲蝕、根面齲蝕発生に関わる予測因子の特定と発生危険度に応じた臨床予防プログラムの再構築」、「歯周疾患の罹患、進行モデルの構築(歯周疾患発症、進行に関わるリスク因子の解明と活動性予測因子の特定)」、「全身の健康保持、増進に影響を及ぼす口腔健康因子の解明」などを研究テーマに、疫学的見地から一歩づつ進んで行けたらと思っています。勿論、基礎研究、臨床研究と一体となった研究態勢が不可欠なことは論を待ちません。教室の枠に留まらず多くの仲間と楽しく研究できることが理想です。
 先生方、事務方にはご指導、ご鞭撻の程宜しくお願いします。学生の皆さんには、これから講義や実習の時にいろんなお話ができることを楽しみにしています。
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