素顔拝見・・・横顔から素顔を!   口腔細菌学講座  中 澤  太

 私の名前は CYUNTAKU TAH、口腔細菌学教室のresidentです。でも、私の姿は地球人には見えません。1977年以来この教室で研究活動を続けていますが、「最も興味深い研究対象は人間である」事に気付いてからは、専ら「人間」を研究しています。私の研究方法は、ターゲットとする人間の机と直角の向きに私の机を置く事から始まります。そして終始、そのターゲットの横顔を通してその「人間」を観察します。ターゲットが移動する時は、私も横向きに移動し観察を続けます。この教室の住人は全て私の研究対象ですが、最近は日本人以外の住人も多くなり、文化の違いによる価値観と思考様式の違いにも興味を持って研究を続けています。今回は、これまでの観察結果の一部をまとめ、報告致します。

観察報告:「中澤 太」その横顔から観察した 素顔(?)
著者:CYUNTAKU TAH

1)その風貌について:
 この世代にしては、彼は背が高い部類だろう。しかし極端に痩せ身であり、典型的な胃下垂タイプの体型。実際、彼は胃薬を離したことが無い。喫煙も胃に悪いと自ら気づいているにも拘らず、禁煙を勧める彼の妻に「タバコを止めたことによるストレスで胃潰瘍・胃ガンになったらもっと悪い」と屁理屈をこねる輩である。その証拠に、彼は一昨年、「急性胃潰瘍で一週間入院」と言う失態を演じている。私は大笑いしてやった。もっとも、最近では胃潰瘍の原因はストレスと言うよりも、グラム陰性、微好気性のHelicobacter pyloriによる感染症らしいが・・・。
 もともと彼は自分の体力や風貌に過信気味である。彼が、朝の洗顔後、鏡の自分の顔を見て『よし、今日もイイ顔だ。元気で行こう』と言う独り言を、私は何回か聞いている。その度に私は《何アホ言ってんだ》と怒鳴ってやるが、私の声は地球人には聞こえない。
 彼は自分なりに、身なりには気を使っているようだ。3本しかないズボンと5本しかないネクタイを毎日順に取り替えて着用しているようだ。彼は、それなりにカッコイイと思っているようだが、私や彼の娘から見たら完全な「オジサン」以外の何物でもない。その証拠に結んだネクタイはいつも曲がっている。《ネクタイピンくらい買え!》と私が叫んでも、地球人の彼には聞こえていない。

2)その性格について:
 彼の性格をもし一言で表現するならば、私は「AGGRESSIVE」と言いたい。彼はかつて、State Unversity of New York at BuffaloのDepartment of Oral Biology (chairman: Dr. R.J.Genco)で2年間の研究生活を経ている。当然私も、彼の横顔観察のための同行した。そこでの彼の友人の多くが、彼を語る時の言葉が「aggressive」であった。彼が米国生活を終え、帰国する際の送別会において、Dr.J.J. Zambonが『FutoshiはB.intermediusやA.actinomycetemcomitansについて、そのserotypingやその特異抗原、LPSなどについて、実にaggressiveに研究成果を出した。同時にlaboの人達との交流もaggressiveであった』と挨拶した事を憶えている。そして更にDr.Zambonは『私の子供は、女の子四人で、この間ようやく息子が生まれた。Futoshiには、男女一人づつの子供がいる。そこで、私が、どうしたらそうなるかと尋ねたら、Futoshiは何と{Japanese special technique ! It's secret.}と答えた。私は今までこんな日本人を見たことがない』と続けた。
 確かに彼は、物怖じしないところがある。しかし、それは「盲蛇に怖じず」に似ているかもしれないと私は思っている。彼は、彼と机を並べる外国人留学生を4年以上指導してきている。その留学生の日本語がいっこうに上達しない理由の1つに彼が挙げられるかもしれない。何故なら、彼はその留学生に対して、すぐに英語を使ってしまうからである。彼の英語がマトモであるかどうかは、私には判断できないが(私が人間を理解する時には、地球上の言語を必要としないから)、とにかく通じる。それほど複雑な英語ではないが、彼は英語をしゃべりまくっている。急いで話している時などは、時制も文法もメチャクチャ、ひどい時は、TomorrowとYesterdayが反対になっている事さえある。それでも彼の英語は通じているようだ。だいたい彼の声は大きいので、その留学生と研究の内容を英語で議論していると、まるで喧嘩をしているようにさえ聞こえてくるのも珍しくない。

3)その生い立ちについて:
 彼が『自分は、越後平野内に位置する農村の農家の長男として生まれた。農業を嫌い普通高校に入学した。大学では微生物学の教授に感銘し、微生物学を専攻し、大学院では溶菌酵素の研究に没頭した。その後、この口腔細菌学教室のスタッフの一人となった』と知人に話していたのを、私は聞いたことがある。
 私の観察した限り、彼には特筆すべき趣味は無いが、時間のある夜には、カンビールを飲みながら本(小説が多い)を読むことが好きなようである。そのビールカンの本数も、最近はめっきり減り、加齢の影響は否定できないと、私は観察している。

結論:
 先に存在があり、それから本質が問われるのが「人間」のようである。であるが故に、全ての人間が不可解である。彼、「中澤 太」もやはり不可解である。紙面の関係で、この観察報告は終了とするが、今後も彼の観察は継続したいと考えている。


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