歯学部附属歯科技工士学校の卒業生諸君に送る

歯学部附属歯科技工士学校長河野 正司

第22期生の卒業生諸君、ご卒業おめでとう.

一昨年の4月に新潟大学歯学部付属歯科技工士学校に入学され、2年間の密度の濃い講義、そして厳しい実習を終了し,4月からは,はれて歯科技工士として、歯科医療の最前線で活躍できる,大きな希望に燃えていることと思います. 諸君の仕事である歯科技工士は,歯が痛い、歯が無くて噛めない、話が出来ない、あるいは食事が飲み込めない、などの困難な中にある患者さんに対して、介護・補助業務にあたる歯科衛生士と共に,歯科医師と共同して治療に当たることになります.

日本は現在,65歳以上の高齢者の人口が国民全体の14%を超え,高齢社会と呼ばれるようになっています.高齢になると徐々に歯が失なれてきます.諸君は歯を失った高齢者の方々に大きな喜びを与えることの出来る職業に就くことになります.老人病院でベットに横になった歯のない高齢者が、新たな義歯を口の中に得て、噛み合わせが回復すると、十分な食事が出来るようになり,大きな声で話が出来るようになります.それだけだはなく,ベットから起き上がり,一人で立って歩けるようにもなるのです.諸君は、このような高齢者の方々に希望を与えることの出来る職業の出発点に、今日並んだと言えます.本学で十分に学んだ学理と技術を生かして、大いに活躍して下さい.しかし諸君らは、さらに練達の士となるために、業を磨く修行を継続的に続けなければなりません.近年の医療技術の進歩に負けない、たゆまぬ研修を継続していただくことを、ここに改めてお願いたします.

私は、昨年の2月にタイに行く機会がありました.2月でも35℃もあるタイの首都バンコクの大学で講義をしに行ったわけです.皆さんも知っているように、タイは有名な仏教国であり、市民生活の中に仏教が息づいていることを感じる国です.例えば、大学に行きますと、構内で学生が教師に挨拶するにも、両手の掌を合わせて「サワディー」と挨拶するということを目にしますし、また、日曜日に有名な寺院を見学に行くと、蓮の花と線香を両手に、お参りに行く人々にも出会いました.このような仏教国のタイで、次のような話を聞きました.仏教の「悟りは」ちょうど「蓮の花が咲くように」やってくる、と言うのです.蓮の花は突然、パカッと音を立てるように、蕾が一度の開くのだそうです.仏教の悟りも同じように、突然やってくるのだ、という話を聞きました.

技工の技術についても同様であります.歯科臨床において認められるような技工技術を得たぞという、技工の「悟り」にも似た境地は、ある時突然感じるものであります.それがいつやってくるのかは、誰も知らない.ただ技術を磨き感性を高めている本人のみがその時を感じることができるのです.その時を感じるために、諸君のからだの中で蓮の花が突然に開く時を感じるために、常に歯科技工に対する技術の習熟に心がけ、感性を高めていっていただきたいと思います.この学校の卒業とは、その基礎が出来たと認定されたことなのであります.

新潟の地で学んだ諸君は、伝統ある本学出身の歯科技工士である誇りを持って、活躍して下さることを望みます.


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