停年退官にあたって

歯科保存学第二講座 教授 原 耕二

私は、平成11年3月末日をもって停年退官を迎えます。昭和42年6月に新潟大学歯学部歯科保存学第l講座助教授として赴任以来、足掛け32年が経過いたしました。その間、昭和50年5月歯学部歯科保存学第2講座教授に昇任し、教育、研究、診療に携わってきました。また平成元年4月より平成7年3月まで(3期)附属病院長を、平
成8年12月より1期、2年間の新潟大学附属図書館旭町分館長としての職責を無事に果たし得ました。これも偏に、新潟大学、歯学部、歯学部附属病院、旭町地区の皆様の温かいご指導とご支援によるものと心から感謝いたしております。

思い出に残る出来事として、平成2年7月より附属病院の組織機構の抜本的見直しと、平成4年度特殊歯科総合治療部の新設に伴い、平成5年5月より旭町地区再開発計画のステップとして、歯学部附属病院の増築計画にとり組み、野田現病院長と連携を保ちながら平成8年度に概算要求が承認されたことでした。思い出に残るもう一つの大きな出来事は、文部省文教施設部、学術情報課、会計課予算企画室、新潟大学施設部等のご尽力と図書館職員一同の努力により「旭町分館と放送大学新潟学習センターの合築」の概算要求が平成10年度第3次補正予算で承認されたことです。旭町分館の増築の概算要求は、平成3年度より提出し続けてきた経緯があります。

附属図書館も大学発足と同時に旭町地区に置いた本館のほか、発足当初の学部に対応して多数の分館を伴って発足しました。その後、昭和46年から始まった五十嵐キャンパスへの統合移転に伴い、中央図書館が建設されて各分館の統廃合が行われ、分館としては旭町分館のみが、旭町地区6部局(医学部、同病院、歯学部、同病院、脳研究所、医療短期大学部)の複合施設として設置されました。現在の旭町分館の建物は、昭和57年に竣工されたものであります。

附属図書館旭町分館における機能

医療情報センターとは、(1)生涯教育・学習支援センター機能、(2)医療情報ライブラリーセンター機能、(3)環日本海医療情報センター機能の三つのセンター機能を具備した中核的センターを意味し、旭町分館を旭町地区の複合的な医療情報センターとして、また地域医療の中核的センターとして、更には放送大学新潟学習センターと建物を合築することにより、相互に連携した生涯教育・学習の拠点として、広く地域を含む社会総体のために貢献すべくその機能充実を図るものであります。

(1)生涯教育・学習支援センター機能:

新潟大学の前身は新潟医科大学であり、新潟市の中心にあり地域医療と従前から強く結びついています。また、放送大学の新潟地域学習センターとの合築により、従来開放していた放送大学・学生さんの分館の利用がより一層しやすくなります。分館は医学・医療関係のほか一般図書・雑誌も所蔵しており、放送大学新潟学習センターの所蔵する図書・教材等とも相互補完的に利用することにより、医学・医療関係を始め、人文・社会科学、日然科学を含む幅広い分野の生涯教育の支援が可能となります。また、旭町分館は医学部、歯学部の学生に対して従来マルチメデイア教室を中心に教官の協力を得て情報リテラシー(情報を利活用する能力)教育を実施してきましたが、今後、時代の要請に合わせて更にコンピュータ関連設備を充実させ、電子化した医療情報の利用拡大を図ります。それと同時に地域医療サービス・生涯教育学習室を設けて放送大学新潟学習センターとの連携も考慮した新しいメディアによる情報リテラシー教育や生涯教育の支援を行う手筈となっております。そのため情報検索コーナー、マルチメディア教室の増強と24時間開放のオープンエリアやビデオコーナー等を新設します。

(2)医療情報ライプラリーセンター機能:

旭町分館が現在行っているMedlineやカレント・コンテンツ (目次情報サービス)及び医学中央雑誌等既存の医学文献情報のオンラインによる提供サービスの拡充に加えて、教育・研究や診療活動から生成されるデータや知見を一次情報データベースとして構築したり、寄贈等により所蔵されている森田文庫、藤田文庫、竹山文庫の電子化と一般公開するなどライプラリーセンターとしての機能を十分発揮しています。また、これらのサービスを効果的に提供するために、電子情報の情報リテラシーを日主的に涵養するための教育設備(マルチメディア教室や検索・ビデオコーナー等)をオープンエリアに設置し、学内者のみならずスクーリングで訪れる放送大学の学生や一般市民等の利用にも供します。分館は、現在館内の一部に学内LANの交換設備(ATM交換機等)を設置しており旭町キャンパスの情報のハプ(結節点)として、ネットワークの運用や管理への協力を通じて情報流通基盤の整備を支援します。このネットワーク機能は、放送大学新潟学習センターとの連携強化にも役立ちます。

(3)環日本海医療情報センター機能:

近年、日本海を囲む日本、ロシア、韓国、北朝鮮、中国、モンゴルの間で経済交流が活発になっており、「環日本海経済圏」の形成が期待されています。学術交流分野においても医学・医療を中心として活発な活動が行われ、その受け皿組織として、日露医学医療交流財団とその医学学術部門として日露医学医療協力機構があります。新潟大学医学部国際協力室は第1回の日露医学医療シンポジウムの事務局として活動しております。このほかAPEC(アジア太平洋経済協力機構)加盟国を中心とした東アジア諸国との国際交流も活発です。ごうした状況から医学研修センターによる医学情報の交流や講師派遣、留学生の交換等の人的交流、シンポジウム開催その他日常業務を通じて多くの医学・医療関係の情報や資料が収集されることから、分館は拠点施設としてこれらを一般に提供いたします。時代の国際に対応して、新潟大学旭町地区においても平成10年9月1日現在で42名(医学部26名、歯学部14名、医療技術短期大学部2名)の留学生を受け入れており、分館内に留学生コーナーを設ける予定にしております。

このように近年、電子媒体による資料の増加や学内LANの整備による、ネットワーク化の進展により大学をとり巻く環境は大きく変化し、図書館も従来の図書館機能に加えて医学・医療の現場における医療情報センターとしての機能の充実が求められることになります。そのような観点からこのたびの分館の増築は、他大学施設の医学図書館に先駆けて、期待が大きいわけです。大学に奉職する者、特に教育に従事する者は種まく人にたとえられます。土地を耕し種をまき、水をやり、草を取るところまでは行っても、花を見ること、収穫することは他人にまかせるといわれます。昭和42年に、新潟大学歯学部に赴任した当時を思い出すとき、教官は「忘れられて喜べる人」といえる心境になることを果たして、予想できたでしょうか。今日、歯学部の教官、学生の皆さまからは生きがいを見出し、私を越えてどんどんと成長して行く姿を見て心から喜ばしく思っております。

これからはそれを見て、ただ喜んでいるばかりでなく、私も学内の皆さまと同じく成長しているのかを確かめて見なければならないと思います。永いこと、本当に有難うございました。


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