歯学部長在職6年間を振り返って


新潟大学歯学部長 小澤英浩


 この度、3月31日付けで3期6年にわたる学部長職の任期を終え、退任し現職に復帰する事になりました。長い間ご協力いただいた歯学部の諸先生方、事務官の皆様に厚く御礼申し上げます。この度歯学部ニュース編集委員会のご厚意により、この6年間を振り返る記事を書かせていただくことになりました。以下、平成5年4月1日から平成11年3月31日までの3期6年間を振り返ってみたいと思います。
 平成5年1月に学部長選考が行われ、1期目の学部長に選ばれましたが、その際、「わが国の大学は今激動期にあり、新潟大学も大きな変曲点に立たされているのは周知の通りであります。大学の将来は自己点検、自己評価のもとに各大学の自由裁量に大きく委ねられており、本学部もその中にあって生みの苦しみを味わっているのが現状です。このような混沌とした状況にあって、より独創的な教育・研究環境づくりを目指すため、学部には今、自己を見失うことなく、何を為すべきかをしっかりと見極める叡智と勇気が求められています。新しい試みに対しては果敢に取り組む積極性が必要ですが、性急な結論を急がず特に教育に関しては学生にとって二度の繰り返しがないことを念頭に、慎重且つ責任ある対応もまた必要であります。
 将来構想としては、6年一貫教育体制における新しいカリキュラムや新しい大学院機構を基盤とし、環日本海圏を睨んだ旭町キャンパスにおける新潟大学メディカルセンター構想の中での歯学部の位置づけを明確にしながら、旭町再開発計画の早期実現に向かって努力する必要があります。
 これらの諸問題を解決し遂行するためには、学部における基礎・臨床のより一層の相互理解と緊密な連携はもとより、教職員・学生間の信頼関係を維持しながら、大学全体がそれぞれの立場に立って共通語を見いだし話し合う努力を重ねることが大切と考えます。
 以上のような理念のもとに、当面の課題として学部教育のカリキュラム、大学院制度、研究体制など教育・研究環境の改善のために、微力ではありますが縁の下の力持ちとしての役割を果たしていきたいと思います。」、と所信を表明致しました。

平成5・6年度の歩み
 平成5年4月、歯学部長に就任して初めての教授会が終わり、ホットして学部長室へ戻るとそこには新聞記者が待ち受けておりました。韓国出血熱ウイールスを保持したラットが、歯学部実験動物観察室で見つかったという投書によるものでした。このように韓国出血熱騒動で幕開けした学部長就任のスタートでしたが、原教授、星野教授はじめ、本学部教職員の一致団結した適切かつ素早い対応により事なきを得ました。その後、息継ぐ間もなく、教養部改組に伴う6年一貫教育の検討や、具体化の兆しを見せはじめた旭町地区五部局における再開発整備計画の検討が活発化し、旭町地区の再開発が一挙に進むかもしれないという夢を抱いた時期でもありましたが、バブル崩壊とともにその夢は消え去りました。大学設置基準の大綱化をはじめとする大学の激動期に突入した時期でもあり、教養部改組に伴う教養教育をはじめとする教育・研究体制の見直しなど、大学の将来は自己点検・自己評価のもとに各大学の自由裁量に大きく委ねられ始められた時期でもありました。その年の歯学部ニュースには、「進学課程廃止に伴う歯学部6年一貫教育の目指すところは、決して専門学校化した教育ではなく、豊かな教養に基づく確固たる世界観と、強い倫理観に支えられた歯学生の育成に努めること、同時に生命科学の一分野として発展してきた歯学を教育するに当たっては、未来への方法と科学的展望を持ち、優れた専門能力を身につけた歯科医師・歯学研究者の育成を目標とする」、ことを明確に致しました。この基本理念に基づき、「科学する心」を養うためのカリキュラムを編成することとし、アーリーエクスポージャー、ボランティア活動、研究室実習、選択制、縦割の総合科目、そしてフリークオーター制度の導入などの具体案が検討され、現在その多くが具体化し実施に向かいつつあります。
 一方、大学院問題は本学部の第一優先課題として取り上げられ、大学院教育の充実、大学院重点化を目標として、大学院の機構改革を行うこと、社会に開かれた大学院としての昼夜開講制を大学院に導入することなどについてこの時期に積極的な検討が開始されました。 
 わが国における高等教育・研究機関を大学院教育を中核として整備し、21世紀の地球を担う人的資源の育成を願う100年の計を込めて、各大学は大学院重点化へ向けて鎬を削り始めたのもこの時期であります。高度に細分化し学際化した生命科学の発達に対応した研究体制を構築するための多機能型の大学院を目標に、学部従属型で縦割的色彩が強い現状の大学院を改組し、将来の重点化へ向けて独立専攻系や特別推進系の新設を検討し始めました。大学院充実の視点として、国際的・高度先端的な研究者を養成するとともに、臨床系にあっては、大学院を専門医になるための必須コースとして位置づけ、高度の専門職能を持つ指導的人材の養成も大学院の役割として重要であることの認識が次第に持たれるようになったのもこの時期であります。 このような大学院歯学研究科の機構改革は当時急速に進められている旭町地区再開発計画とも深い関わり合いを持ち、医学部、脳研究所を横断するような新潟大学メディカルセンター共通の特色ある複合領域系研究科の設置も構想されました。旭町地区再開発整備計画は平成6年2月8日付けの「新潟大学旭町キャンパスの再開発整備計画基本構想」として纏められていますが、その骨子は、旭町地区を新潟大学メディカルセンターとして位置づけ、附属小中学校跡地を含めた旭町地区に有機的に建物を統合・整備すること、国際協力センターを設けて環日本海圏諸国との医学・歯学・医療・歯科医療の交流の中心機関とすること、現在の教育・研究機構を再編成し、大学院の重点化を目指すこと、附属病院も再編成し、全人的医療の要求に応え、かつ高度先端医療を実践できる組織とすることなどでありました。
 平成6年6月9日に開催された第9回旭町地区将来計画委員会においては、旭町地区施設整備計画の基本となるゾーニングについて諮られ、第3案を基本案とすることに歯学部、歯病としても合意しました。すなわち、歯学部・同附属病院は現在位置と医学部外来棟を含めたゾーンに再開発を行い、医学部・同附属病院により接近した形態で、順次整備することになりました。再開発の第1期工事は最も老朽化している医学部附属病院の病棟から開始することとし、現在その工事が進行中であります。一方、この再開発整備計画のために待たされていた歯学部附属病院の増築については、再開発整備計画とは別に概算要求することが認められ、平成9年3月に目出度く竣工致しました。

平成7・8年度の歩み
 1期2年を終え、2期目の学部長選考にあたり、私は次のような所信表明を行いました。 
 「前回の学部長選考における所信表明で、私は6年一貫教育体制における新カリキュラムの編成、大学院機構改革を含めた歯学部・大学院歯学研究科の将来構想の策定、ならびに旭町地区再開発整備計画における歯学部の位置づけを明確にすることを目標に掲げ、今日まで努力を重ねてまいりました。その結果、皆様方のご協力とご支援によりまして、新カリキュラムの骨子の作成、将来構想・基本計画の策定、ならびに望ましい歯学部・歯病の再開発ゾーンの決定など、当初の目的はほゞ達成する事が出来たと確信しております。
 以上の経過を踏まえ、当面次のような諸課題を達成すべく努力する所存です。
○創造的且つ魅力ある新カリキュラムの作成。
○策定した歯学部・大学院歯学研究科の将来構想・基本計画に従い、積極的にその具体化を目指す。
○教育・研究・診療の一体化した特徴ある学部・大学院(大学院重点化)を目標として、まず特色ある博士講座の新設、大学院機構の改革を行う。
○社会人の受け入れも可能にする大学院の昼夜開講制の導入を、他大学歯学部に先駆けて早急にその実現をはかる。
○歯学部・歯病の新ゾーニング案に基づき、歯病における不足分の施設整備をはじめ、一日も早い学部・病院の再開発整備の実現をはかる。
 これらの諸課題を達成することは、21世紀へ向けての本学部の飛躍的な発展のために不可欠であり、今こそ学部全体の叡智と勇気を結集すべきであると考えます。そのために私自身微力ではありますが、出来る限りの努力をさせて頂きたいと思っております。」
 
 
この所信表明に基づき、大学院の昼夜開講制、高齢者歯科学講座の新設を中心に具体的な検討を開始いたしました。
1)大学院歯学研究科に昼夜開講制を導入
 多くの分野で生涯学習の重要性が叫ばれ、特に生命科学領域ではリカレント教育の必要性と、その体制の組織化が強く望まれ始めており、歯学領域においてもその対応が急務であるとの一致した認識から、現状分析とともに、本制度の導入による波及効果、この制度の維持・発展の見通し等について検討し文部省との折衝を行いました。その結果、歯科医療は疾病の多様化・複雑化に加えて高度先進的な治療技術を要する疾患が急増しており、対応する歯学・歯科医療の研究分野の知識も飛躍的に増加しつつある現状と、実地診療にあたっている一般開業歯科医師や病院勤務歯科医師、歯科保健医療に従事している社会人の中からも、最新の歯学の知識・技術を学び、高度の歯学研究能力を身につけた歯学研究者として、その成果を社会に還元したいという要望が強いことが明らかとなりました。
 そこで、新潟大学歯学部大学院歯学研究科は全国の歯学部・歯科大学に先駆けて、大学院設置基準第14条に定める教育方法の特例を活用して昼夜開講制による社会人特別選抜を導入し、平成8年4月に開講しました。これは、新潟大学の歯学研究・教育において画期的なことであり、多くの有望な歯科医療関係社会人が在職のまま大学院の正規の高等教育を受け、歯学研究・教育及び実践上の指導的役割を果たしうる学識と研究能力を培う機会を得ることができるようになったわけであります。また、現在の歯学研究科に在籍する学生にとっても、これら社会人との切磋琢磨により、一層歯学研究の持つ社会的重要性にも目覚め、研究成果の社会還元を目指して研究を進展させるためのモチベーションを得ることが期待され、その実が着々と稔りつつあります。
 開講された昼夜開講制大学院歯学研究科には、初年度5人の大学院生を迎え、平成9年度には8名、平成10年度には9名の入学生を迎え、益々その意義と有用性がひろく人口に膾炙しつつあるのは喜ばしい限りであります。

2)博士講座の新設について

 平成7年から8年度にかけて、博士講座の新設を検討し始めました。一つは急速な高齢化に対処するために、高齢化を加齢現象の過程の中で明確に捉えるための加齢歯科学を専門的に研究し教育する博士講座の新設でありました。
 高齢化に対応して国は長寿科学を「老化のメカニズムの解明、高齢者特有の疾病の原因解明と予防・診断・治療、更に高齢者の社会的・心理的問題の研究等、高齢者や長寿社会に関し、自然科学から人文社会科学に至るまでの幅広い分野を総合的・学際的に研究する学問」と定義していますが、歯学における長寿科学の概念もこの視点に基づくものであり、加齢歯科学は歯学領域における加齢現象や老化抑制機構の解明とともに、歯科領域における成人疾患、老年疾患の発症機序解明のため複数領域からなる学際的研究を行う講座であること、さらに、高齢者のQOLの向上、高齢者に対する歯科医療体制の整備・充実を図り、福祉行政の観点も踏まえて幅広く総合的かつ体系的に発展させる学問領域とすることを学部の共通認識と致しました。同時に、加齢歯科学は高齢者を直接の対象とするばかりではなく、高齢化を加齢の一過程として捉え、高齢者に至る過程で生じる各種歯科疾患の予防や治療に関する教育・研究も対象とする学問領域であることも文部省に対して再三にわたり説明し、了解を求めました。すなわち本学部においては、加齢歯科学を学問の基盤として、高齢者の顎顔面口腔領域を総合的・体系的に取り扱う教育・研究体制を確立し、学際的な歯学の新しい学問領域の核として発展させるとともに、社会的要請に応えるためにも今後の高齢化社会に対応する臨床体制の確立を目指して、上記のような学問領域を担当する基幹講座として加齢歯科学講座の新設を概算要求致しました。
 その結果、平成9年には全国立大学で初めて加齢歯科学講座の新設が認められ、現在着々と講座の研究・教育体制が整えられつつあります。 


平成9・10年度の歩み
 3期目の学部長選考にあたり、躊躇しながらも次のような所信表明を致しました。
 「私は皆様方のご協力により、2期4年にわたり歯学部長を努めさせて頂きました。その間、新カリキュラムの骨子の作成、大学院機構改革を含めた歯学部・大学院歯学研究科の将来構想の策定、ならびに望ましい歯学部・歯病の再開発ゾーンの決定、社会人の受け入れも可能にする大学院の昼夜開講制の導入、そして加齢歯科学講座の新設など、皆様方のご協力とご支援によりまして、当初の目的はほゞ達成する事ができたと確信しております。
 今後、これらが画龍点晴を欠くことのないよう、具体的な運用に十分な配慮をするとともに、卒前臨床実習とリンクした卒後研修カリキュラムの策定や、教育・研究・診療の一体化した特徴ある学部・大学院(大学院重点化)を目標として、大学院機構改革を行うことが当面の課題として科せられていると思います。
 本学部がこれまで培ってきた、基礎・臨床の相互理解と緊密な連携をより一層確かなものとし、将来に対する期待と希望を持てる学部、自由な発想と創造性に溢れる学部、全国の歯学部・歯科大学の先導的・指導的役割を果たすことのできる特色ある歯学部として発展することを心から望んでいます。
 これらの希望を実現するために、新しい体制による学部運営にも教授会の一員として微力を注ぐとともに、私自身、教育者・研究者として研鑽を積む必要性も痛感しており、そのためにより一層の力を傾けたいと念じております。」

1)歯科医師需給問題
 
平成9年度は歯科医師需給問題で幕が開きました。
 平成9年度早々に開催された国立大学歯学部長会議ならびに歯科大学長会議において文部省は、わが国における人口動態と歯科疾病構造の変化に対して歯科医師は過剰であり、総医療費抑制のためにも医師・歯科医師は削減せざるを得ない、という見解を明らかにしました。国立大学歯学部については早急に学部のあり方、国立大学歯学部の存在意義などの検討を行い、改革案を提示することが求められました。やや唐突の感もありましたが、わが国の諸情勢は行財政改革にも見られるように切迫した状態にあることは事実であり、我々もこの問題について真剣に取り組む必要性をこの時点で認識致しました。
 このような現状を鑑みた文部省の改革の視点としては、学部統廃合、「独立行政法人化」、民営化なども視野に入れた入学定員削減、モチベーションを持った人間を入学させる編入学を含めた入試制度改革、カリキュラム改革、他の医療分野との提携、臨床教授制度の導入、などの歯学教育の多様化、将来構想としてのデンタルスクール化、大学院の改組・充実、重点化・大学院大学化などの大学院改革や地球的規模での医療人の育成のための国際大学化、などが挙げられました。臨時学部長会議が頻繁に開催され、国立大学歯学部の命運を掛けた論議が続きました。その間、歯学部白書やパンフレットの作成など、国立大学歯学部の特色と役割についての理解を求めるための作業を行い、最悪の事態に陥らないため、またこの事態を追い風とするため必至の努力が重ねられました。
 その後、平成10年度における国立大学歯学部長会議や歯科大学長会議においても需給問題が主題となり、国立大学にあっては、卒前臨床実習の相互評価の実施など、国立大学歯学部の発展と生き残りを掛けて不断の努力を重ねて今日に至っております。その詳しい内容についてはすでに、歯学部ニュースに掲載してありますのでご参照下さい。
 需給問題についてはその後、大きな動きはありませんが、平成11年2月26日に提出された「21世紀医学・医療懇談会第4次報告」(21世紀に向けた医師・歯科医師の育成体制の在り方について)から、需給問題に関する事項を以下に纏めて見ました。

2)21世紀医学・医療懇談会の提言 
 近年における学術研究の急速な進歩、高齢化社会の進展、疾病構造の変化、先端医療の進展など、我が国の医学・医療を取り巻く環境は大きな変革を迎え様としています。その中で、脳死、臓器移植、遺伝子治療などの生命倫理の問題、さらには先端医療の進歩と生命の尊厳との調和の問題が投げかけられるとともに、国民の側からも、医療人としての人間性や倫理観の問題等について厳しい指摘がなされている現状を踏まえ、文部省においては21世紀における我が国の医学・医療の姿を見据え、新しい時代に対応した教育・研究・診療の進展を図る上で必要な諸方策について検討を行うため、平成7年11月より、「21世紀医学・医療懇談会」を設けて、平成8年6月13日には第1次報告を提言し、平成11年2月26日にはその第4次報告が出されました。
 特に、平成8年6月にとりまとめられた第1次報告においては、21世紀において国民の命と健康を守る責務を果たすことのできる医療人を育成するためにはどうすべきかという観点から、入学者選抜方法及び学部教育の改善を中心とする幅広い提言を行い、この提言を踏まえ、各大学においては、医学教育の改革に係る様々な取組が行われています。

◎歯科医師の需給と入学定員について

 将来の歯科医師需給について、歯科医師の供給は少なめに、また、需要は多めに見積もって推計しても、平成17年以降、供給が需要を上回り、平成37年には9、000人から18、000人程度の過剰が見込まれると予測しています。その上で、具体的な方策として、新規参入歯科医師の抑制、臨床研修の必修化及び高齢歯科医師の稼働停止等を組み合わせて行うことにより、将来の歯科医師数を適正化していくこととし、新規参入歯科医師数については、歯科医師国家試験の改善が図られる結果生じる削減効果を含めて、歯学部の入学定員の削減等を併せて行うことにより、10%程度の削減を目指すことを提言しています。しかし、今までの経過からしても29大学一律の削減は不可能であり、国立大学としては10%を越える削減が必要であり、入学定員の削減は、地域の歯科医師数により勘案することも含めて、国立大学に限っても一率の削減ではなく、大学によって異なる数字となる可能性も指摘しています。また、将来的には、高齢歯科医師が急増していくことから、その稼働停止が今後の歯科医師の需給対策において、極めて重要であることを強調しています。
 さらに、歯学部の今後の入学定員の在り方については、歯科医師の需給というマクロ的な数量調整の観点だけではなく、21世紀の医療の担い手にふさわしい質の高い歯科医師の育成・確保をいかに図っていくべきかという視点から検討されるべき課題であるとしながらも、歯学部の入学定員については、将来における歯科医師の過剰がもたらす弊害等にかんがみ、現状よりさらに削減していくことが必要であるとの結論に達したと結んでいます。
 なお、これらの削減にあたっては、医師・歯科医師の育成について、国公私立大学がそれぞれの立場から国民の要請にこたえてその役割を果たしていることにかんがみ、国公私立大学全体で対応すべきであるとし、
(ア)国公私立間の均衡
(イ)これまでの定員削減の状況
(ウ)各大学の教育研究上の重点の置き方の相違による機能分化の状況(エ)卒前・卒後の実習を含む教育体制
(オ)各地域における現在の医師数等の医療提供体制の現伏
等を踏まえ、医療をめぐる諸般の状況の推移を見ながら、それぞれの関係者において対応についての検討を行うよう要請しています。
 しかし、入学定員の削減を行う場合には、併せて教育研究条件の実質的向上を図る観点から、教員数についてはできるだけ確保するよう努めること、また、入学定員の一部を振り替えて、生命科学などの学際的領域や保健・福祉などの社会的ニーズの高い分野など、医療に関連する他の学科に改組転換することなども、各大学の状況に応じて積極的に検討することが望まれるとしています。

 以上が、需給問題に対する最近の動向ですが、平成13年が入学定員削減などのタイムリミットとされており、すでに削減を終えた東京医科歯科大学を除いた10国立大学では、その削減数と削減時期について検討しているのが現状です。


3)大学審議会の答申
 
我が国は戦後50年を経て、教育制度も大幅な見直しが必要な時期に差し掛かっており、同時に到来する少子化・超高齢化社会を目前に政治・経済・社会全体にわたり押し寄せてきている大きな改革の波が、教育についても抜本的な見直しを求めています。特に大学教育においては、教育研究の高度化、学際化、国際化、学術研究の進展、大学進学率の上昇と学生の多様化、多様な社会に対応するための人材養成、生涯学習ニーズの高まりなどの社会情勢の変化に対して文部省は大学改革検討組織として昭和62年に大学審議会を設置し、高等教育の個性化、教育研究の高度化、組織運営の活性化の改善策を検討して、相次ぐ入試制度の改革をはじめ平成3年には大学設置基準の大綱化等を行い、大学の個性化を促す方針を明確に致しました。平成10年10月に提出された大学審議会の答申は、これらの一連の流れを総括したものであります。
 この答申には「競争的環境の中で個性が輝く大学」との副題が付され、・課題探求能力の育成を目指した教育研究の質の向上、・教育研究システムの柔構造化による大学等の自律性の確保、・責任ある意思決定と実効を目指した組織運営体制の整備、・多元的な評価システムの確立による大学等の個性化と教育研究の不断の改善、という4つの基本理念に沿った具体的な改革方策が提言されています。
 本学においては、平成10年6月に出された大学審議会の中間答申を受けて、早速各課題に対するワーキンググループを設置し検討を重ね、平成11年1月に「学際的基幹大学としての新潟大学」ー日本と地域の未来のためにー
『21世紀を生き抜く新潟大学』と題する報告書を「新潟大学の将来構想」としてまとめました。すでに、皆様のお手元に渡っていると思いますので、是非ご一読下さい。
 このような、大学改革の時期に当たり、本学部においても需給問題と共に早急な対応が求められています。
 すでに、平成6年度に策定された本学部の将来計画は、一歩一歩着実に実現に向かって歩みだしており、全国歯学部・歯科大学に先駆けて導入した大学院における社会人選抜制度と昼夜開講制度の導入、超高齢化社会への積極的対応のための加齢歯科学講座の新設も将来計画に則った改革の一であり、平成11年度の大学院改組、4年制学科新設などの概算要求もその流れにあります。さらに、入試制度、新カリキュラム編成などについても積極的に検討を行っており、編入制度の導入や、選択制科目、ボランテイア活動、基礎研究室配属などについては実施を目前にしている状況です。
 このように、本学部は従来より常に改革を求め、その具現化に努めてきました。平成9年度に設置された歯学部改革委員会は大学院を中心とする歯学部の将来構想を策定するための委員会であり、大学院重点化、4年生学科の新設をはじめ3年次編入などにつき、精力的な活動を続けてきました。その詳細については歯学部ニュースに報告致しましたのでここでは割愛致します。
 その他、平成9・10年度に掛けては卒後臨床研修の義務化、いよいよ目前に迫った2003年を目途とする独立行政法人化への対応など、難問が続出し、歯学部・大学院歯学研究科の改革は急を告げています。これらの諸問題に関してもその概要はすでに歯学部ニュースを介してお伝え致しました。以上が、平成5年度から今日に到るまでの学部の主な歩みでありますが、以下国際交流関係、学部の研究設備、人事などについてまとめてみました。

平成5年度から平成10年度までの国際交流
 国際交流に関しては、歯学部ではすでに平成元年にカリフォルニア大学サンフランシスコ歯学部(UCSF)をはじめ多くの大学と学部間協定を締結しております。昭和57年におけるミネソタ大学、あるいは平成6年に締結されたハルビン医科大学との大学間協定に関しましても歯学部は中心的役割を果たして参りました。平成5年以降については、平成6年にはバングラデッシュのダッカ大学、平成7年には中国の昆明医科大学とも学部間協定を結びました。続いて平成8年にはルーマニアのカロル・ダビラ医科薬科大学、フィリッピン大学、湖北大学との学部間協定を締結しました。さらに、平成9年、10年にはマニラ・セントラル大学歯学部、インドネシア・ガジャマダ大学歯学部との協定も結ばれ、現在までに8大学との姉妹校協定が締結されております。さらに、現在上海第二医科大学口腔医学院との姉妹校協定の締結が進んでおります。
 環日本海圏、取り分げロシア歯科医療との協力機構も活発になり、平成5年6月8日には日露東北アジア医学交流第1回国際シンポジウムを新潟で開催し、その後日露で交互に国際シンポジウムを開催し、相互理解と医学・医療の発展につとめております。第3回日露医学医療交流国際シンポジウムは、平成7年6月22日大阪で開催され、歯科分化会ではペリオとインプラントを主題として発表が行われました。第4回のシンポジウムは平成8年9月にロシアのイルクーツク大学で開催され、歯科分科会は口腔病学(Stomtology)を中心として、インプラント、歯科矯正学に関するシンポジウムが行われ本学部からも多数の参加がありました。平成9年には札幌で第5回国際シンポジウムが、そして平成10年8月にはハバロフスクで第6回日露医学医療国際シンポジウムが開催され、本学部は環日本海歯学協力機構幹事校として今日まで役割を果たして参りました。今後も本学部は、これらの国際交流を活発にし、特にアジア地域に対して拠点大学歯学部としての国際的な役割を果たすことが重要であります。 


平成5年度から平成10年度までの特別設備
 平成5年度概算要求によって、わが国の大学として初めてエネルギーロス型元素分析装置(EELS)が本学部に設置され、次いで平成7年度には「細胞機能分析装置一式」が購入され、B棟7階の動物実験観察施設の一角に設置されました。平成9年度には、顎機能検査システムも設置され、各研究分野における大型研究機器も全国レベルを上回る様になりました。さらに、教育用特別設備として、平成5年度に引き続き、平成7年度、平成9年度に臨床実習のシミュレーション機器が整備されました。この装置も国立大学では初めての機器であり、臨床実習を客観的にモニターし、反復練習の出来る画期的な機器として多くの大学の注目を集めています。

平成5年度から平成10年度までの人事など
 人事面では、生理学講座の島田久八郎教授の後任として、平成5年8月に長崎大学から山田好秋教授を、平成6年12月には歯科理工学講座の塩川延洋教授の後任に本学の宮川 修教授をお迎え致しました。さらに、平成7年12月には予防歯科学講座の堀井欣一教授の後任として、九州歯科大学から宮崎秀夫教授をお迎えし、また、歯科薬理学講座の鈴木章俊教授の後任として、平成8年4月に山之内製薬研究所長の川島博行先生を教授としてお迎え致しました。一方、平成8年1月1日付けで、口腔解剖学第二講座の高野吉郎教授が東京医科歯科大学歯学部口腔解剖学講座への配置換が決まり、平成8年11月に後任教授として同講座の前田健康助教授を教授としてお迎え致しました。
 平成9年に設置された加齢歯科学講座には本学補綴学講座から野村修一先生が初代教授として選考されました。また、口腔外科学第二講座の大橋教授の後任としては、同講座の高木律男助教授が教授に昇格致しました。
 本年3月には歯科保存学第二講座の原教授が停年で後退官になられ、現在その選考が行われており、近々また新しい教授をお迎えする事になります。
 このように、学部長在職中に多数の新教授をお見送りし、お迎えすることができましたことは誠に喜ばしく、光栄に思っております。       
 
 6年を駆け足で振り返りましたが、記憶も定かでないところも多く、間違った記載も多々あるものと思います。ご容赦下さい。
 瞬く間の6年間であり、自分なりに努力はした積もりですが、まさに微力であり、所信でお約束したことを十分に果たせなかったことが悔やまれます。これからは、花田晃治新学部長のもとで学部が運営されます。歯学部にとっては誠に困難な時期に差し掛かっていますが、学部一丸となって新学部長を支え、叡智と力を出し合って、本学部が希望に満ちた歯学部に発展することを願って止みません。


 最後に、平成6年11月6日に出された旭町地区再開発整備計画基本構想・基本計画書に記されている「歯学部,大学院歯学研究科の基本構想」をここに改めて引用し本稿を閉じたいと思います。この基本構想は確固たる信念に基づき、学部の合意のもとに策定されたものであり、いかなる改革が行われても揺るぎない本学部の基本精神として生き続けるものと確信しています。

『新潟大学歯学部・大学院歯学研究科は、以下の基本理念をもって、歯科医療に貢献できる歯科医師と、歯学の教育・研究を推進できる研究者の育成に努力する。
1)豊かな教養と世界観をもち、強い倫理観に支えられた歯学生の育成に努めると共に、未来への方法と科学的展望をもった優れた専門能力を有する歯科医師を育成する。
2)専門教育では、歯学の基礎・臨床に関する基本的な学問を科学的に把握させると共に、多彩な社会的要求に対応するするために、予防歯科学、社会歯科学分野、高度先進歯科医療などを分担できる人材の育成にも努める。これらの結果、大学院でのより高度かつ国際レベルの歯学研究を推進する研究者の育成が期待される。
3) 臨床実習教育としては、一般外来歯科に絞って総合的に行い、必要な基本的 臨床手技をその理論とともに修得させる。その結果、卒業後、大学院でのより高度の一般外来歯科,専門歯科の研修や先進歯科医療技術の研究、開発に携わる卒業生が期待される。』

 長い間のご協力を改めて心から御礼申し上げ、学部長退任の挨拶とさせていただきます。                   

平成11年3月


【参考資料】
1 歯学部ニュース(平成5年度第1号、平成6年度第1号、平成7年度第2号、平成9年度第1号、平成10年度第1号)
2 学際的基幹大学としての新潟大学:新潟大学(平成11年1月)
3 21世紀に向けた医師・歯科医師の育成体制の在り方について:21世紀医学・医療  懇談会第4次報告(平成11年2月26日)


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