新潟大学大学院医歯学総合研究科 歯科矯正学分野 齋藤 功 教授
<講演要旨>
歯科矯正学の教科書には、古くから「フィロソフィー」という項目が設けられ、著者あるいは編者の歯科矯正学あるいは矯正臨床に対する考え方が述べられてきました。これは、矯正治療を行う場合には治療全体に対する一貫した考え方が必要であると同時に、その考え方はそれぞれの術者により異なっていることを意味しています。日本の矯正治療は、1970年代の初めに接着性レジンを用いてブラケットを歯に直接接着させる方法、いわゆるダイレクトボンディングシステムの登場により広く普及してきたとされていますが、新しい装置の開発と普及は、必ずしも矯正臨床の向上と軌を一にするものではありません。新潟大学では、矯正歯科医が果たすべき最低限の治療目標を達成させるとともに、患者の負担軽減にも配慮しながら、よりよい治療結果を出すことを目指し、およそ10数年かけて治療方法やシステムの見直しを図ってきました。
一方、人口構造の変化や人々の口腔内への意識の高まりとともに、成人矯正治療の需要は増加傾向にあるとされています。1990年から2004年までの過去15年間に、当診療室で治療を開始した患者の初診時年齢の推移をみると、1990年から1992年では20歳以上の成人患者が15%程度であったのに対して、最近5年間では30%を占めるようになり、特に、1996年以降は初診時年齢40歳以上の方が10%近くにまで達しています。このような背景から患者ニーズは従来にも増して多様化し、外科的矯正治療あるいは歯の移植をとりいれた矯正治療など、他の歯科専門領域の力を借りながら治療する症例が増加しています。また、最近ではスケレタルアンカレッジを利用した矯正治療も少しずつ取り入れるようになってきました。
本講演では、実際の臨床例を紹介しながら、当診療室における矯正治療システムの変遷と現況について述べ、矯正臨床に残された課題と将来展望についても触れたいと思います。略歴 | |
生年月日 | 1958年4月6日 |
1978年4月 | 新潟大学歯学部入学 |
1984年3月 | 同 卒業(14期生) |
1984年4月 | 新潟大学大学院歯学研究科入学 |
1988年3月 | 同 修了(歯学博士) |
1988年4月 | 新潟大学歯学部助手 (歯科矯正学教室) |
1992年1月 | オハイオ州立大学客員講師 |
1996年4月 | 新潟大学歯学部附属病院講師(矯正科) |
2004年10月 | 新潟大学医歯学系教授(大学院医歯学総合研究科・歯科矯正学分野) |
資格 | |
歯科医師:1984年5月31日(歯科医籍登録 第91830号) |
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主な学会活動 | |
日本矯正歯科学会(評議員)、甲北信越矯正歯科学会(理事)、日本口蓋裂学会(評議員)、日本歯科医学教育学会(評議員) |
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主な研究分野 | |
歯の移動と神経組織、偏位咬合症例の矯正学的管理と治療、下顎頭吸収を有する症例の治療と管理 など |