長期臨床経過例からみた接着性審美修復物の信頼性ーレジンからラミネートベニアまでー

新潟大学歯学部口腔生命福祉学科 福島正義(8期生)

平成20年8月24日(日)13:00〜15:00

キャンパス・イノベーションセンター東京、509A 509B会議室(新潟大学東京事務所)

東京都 港区、JR田町駅下車 東口(芝浦口)より徒歩1分

受講費:無料

 

 患者にとって歯冠修復法を選択する際に修復物がどのくらい長持ちするかは治療費とともに最大の関心事で

ある。従って、歯科医は患者にインフォームドコンセントを行う際に客観的臨床データに基づいた明確な根拠

が必要となる。しかしながら、これまで歯科医療で最も欠けていたのが臨床研究から得られた信頼性の高い根

拠である。実験室における各種材料の口腔内模擬耐久試験のデータは材料開発には有用である。しかし、修復

物の臨床性能との相関性は乏しい。従って、患者への情報としての真のエンドポイントを得るには臨床研究し

かない。しかしながら、長期の臨床研究は協力患者の確保と倫理的配慮、時間的消費、徹底したリコールシス

テム、再現性のある評価基準など臨床系研究者にとって多大な労力を必要とする。その上、長期の臨床データ

が得られたときには評価した製品は市場から消えていることが少なくない。しかし、製品が市場から消えたと

しても患者の口腔内には厳然と存在し、日々機能していることを忘れてはならない。その状態をモニターしな

がら材料改良のための情報を集める努力が求められる。

 修復歯の事故の累積発生率は時間の経過とともに大きくなるといわれている。コンポジットレジンの10年

前後の経過報告では50%〜80%の修復物の生存率が報告されている。修復物の事故原因は修復物の破折、歯

質の破折、2次う蝕、隣接面接触点の喪失、解剖学的形態の喪失、辺縁着色、歯髄疾患、歯周疾患などが挙げ

られている。また、小臼歯よりも大臼歯に事故の発生傾向が高いことも報告されている。このように長期に見

ると事故例が多く見られるようになるにもかかわらず、最近では接着性修復材料であるコンポジットレジンが

広く受け入れられている。その大きな理由はMinimal Intervention Dentistryを実現できる有力な材料である

からである。審美性と接着性を備えているために患者に受け入れられ易く、歯科医にとっても歯質保存のため

の生物学的修復が可能である。

 前歯部と臼歯部では材料に求められる性質は異なる。前歯部では審美修復材料として色調性能が重要である。

材料の変色や表面粗さなどに由来する色調適合性や辺縁着色の評価が重視され、辺縁適合性や解剖学的形態は

それほど問題にならない。一方、臼歯部では咬合のストレスに耐えうる充填材料としての機械的性能が重要で

ある。そのため辺縁破折、体部破折、歯質破折や摩耗に由来する辺縁適合性や解剖学的形態の評価が重視され

るが、審美性に関与する変色や表面粗さなどはそれほど問題にならない。現用のコンポジットレジンは臼歯部

の充填材料として10年以上の耐久性を期待できる。しかし、前歯部の審美修復材料としては変色の問題が依

然あり、レジンラミネートベニアの経験からでも10年以上の効果を期待することは難しい。材料の変質劣化

が原因で再修復を繰り返すことを減らすために、色調安定性の継続的改良が必要であろう。しかし、現時点で

もアスファルト道路の塗り替えのように周囲健全歯質をほとんど失うことなくコンポジットレジンの劣化層や

破折部を一層削除して新鮮材料で補修できることは接着性修復材料の特長である。

 修復物の信頼性は口腔環境という条件の中で可及的に長く、所望の機能を維持できるかどうかである。その

信頼性を高めるためには定期的診査、咬合調整、再研磨、専門的歯面清掃(PTC)、補修などを計画的に行う予

防保全が大切である。

講師略歴

昭和57年3月 新潟大学大学院歯学研究科修了・歯学博士

昭和57年4月 新潟大学助手(歯学部附属病院・第1保存科)

昭和61年9月 新潟大学講師(歯学部附属病院・第1保存科)

平成13年11月 新潟大学助教授(歯学部附属病院・総合診療部)

平成16年4月 新潟大学医歯学系教授(歯学部口腔生命福祉学科)

日本歯科保存学会(評議員、指導医、専門医)、日本接着歯学会(評議員、認定医)、日本老年歯科医学会(評議員、指導医)、

日本歯科理工学会(Dental Materials Senior Adviser)、 日本歯科審美学会(常任理事)、新潟歯学会(評議員)