シンポジウム報告

平成19年2月10日(土)、新潟大学医学部有壬記念館(新潟市)において、新潟大学特色GPシンポジウム「学生主体の三位一体新歯学教育課程〜社会に貢献する包括的歯科医師の育成を目指して〜」を開催しました。当日は76名の方にご参加いただきました。その内訳は、大学関係70名、行政関係2名、民間企業2名、一般2名でした。

歯学教育の分野では、少子・高齢社会の進展による疾病構造の変化、患者や学生のニーズの高度化・多様化、生命科学の急速な発展、教育内容の国際標準化、さらには卒後臨床研修制度の必修化に伴い、卒前教育の役割を整理して、卒後教育や生涯学習との円滑な接続を考慮することの必要性が指摘され、その在り方についてさまざまな見直しが進められています。過密な記憶偏重教育はもはや過去のものとなりつつあり、学生が自ら課題を設定し解決する能動的な学習により、歯科医師に求められる知識・技能・態度をバランスよく身につける学習者中心の教育が注目を集めています。今回は、特色GPに採択された初めてのシンポジウムであり、特に知識の習得に的を絞り、歯学教育への問題発見解決型学習の導入について、その効果を評価し問題点を探ってみました。

シンポジウムは、新潟大学理事河野正司の開会のあいさつの後、まず、文部科学省高等教育局大学振興課課長補佐の三浦和幸氏より特色GP創設の経緯についてご説明いただき、続いて、平成18年度特色GPに採択された「学生主体の三位一体新歯学教育課程」、すなわち、新潟大学歯学部の教育課程の概要について取組責任者である新潟大学医歯学系教授前田健康より紹介がなされました。


文部科学省 三浦和幸氏

新潟大学 前田健康先生

次に、今回のシンポジウムのテーマである歯学教育への問題発見解決型学習導入の実践事例報告がなされました。基調講演として、世界で初めて歯学教育にProblem Based Learning(以下、PBL)カリキュラムを取り入れたスウェーデン・マルメ大学歯学部教授Maria Nilner先生より「Experiences from a Problem Based Learning Curriculum in Malmo, Sweden」と題した講演をいただきました。各大学報告としては、東北大学大学院歯学研究科教授小関健由先生より「東北大学―東北大学歯学部5年次学生へのPBL授業の導入―」、昭和大学歯学部講師片岡竜太先生より「昭和大学歯学部におけるPBLチュートリアル教育について」、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科講師鶴田潤先生より「東京医科歯科大学歯学部歯学科―歯科医学教育への問題基盤型学習導入の実践事例報告―」、日本歯科大学新潟生命歯学部教授影山幾男先生より「日本歯科大学新潟生命歯学部におけるPBLチュートリアル―3年目を迎えて―」、新潟大学医歯学系教授小野和宏より「新潟大学歯学部のPBLチュートリアルとその評価」と題した講演がなされました。その後、新潟大学医歯学総合病院教授魚島勝美がコーデイネーターを務め、最近の歯学教育の動向、歯学教育におけるPBLの有用性、PBL導入の目的と方法、PBL導入と既存カリキュラムとの整合性、PBL実施の問題点、学生評価とカリキュラム評価などに関してパネルディスカッションが行われました。パネリストおよびコメンテーターのみならず、会場の参加者から多くの質問や意見が挙げられ、活発な討論がなされました。


左から マルメ大学 Maria Nilner先生、東北大学 小関健由先生、昭和大学 片岡竜太先生

左から 東京医科歯科大学 鶴田潤先生、日本歯科大学 影山幾男先生、新潟大学 小野和宏先生

歯学教育への問題発見解決型学習導入の実践事例報告

パネルディスカッション

参加者にアンケート調査を実施した結果(回収率35.5%)、「今回のシンポジウムは大変よかった」というものが48.1%、「よかった」33.3%、「ふつう」14.8%で、「PBLについてよく理解できた」、「PBLの有用性が分かった」、「各大学におけるPBLを行う上での工夫と問題点が分かった」などの意見が寄せられました。また、「PBLは歯学教育にとって有用と思うか」との問いに対して、「大変に有用」37.0%、「有用」44.4%、「どちらともいえない」11.1%、「無回答」7.4%であり、「さまざまな局面で、問題解決できる能力を有した歯科医師の育成に有用と思う」、「知識を統合させて、問題を解決する力を身につけられる」、「学生が目的をもって、本当に興味をもって学べる」などの意見がありました。今回のシンポジウムにより、参加者の皆様に、考える歯科医師を育てる重要性と、その学習法としての問題発見解決型学習の有用性を深く理解いただけたと考えます。しかし一方で、「PBLの教育効果について、学生アンケートの結果だけでは不十分ではないか」、「客観的な評価が欲しい」などの意見もいただいており、これを踏まえ、評価法のさらなる改善を行い、中長期的観点からの客観的有効性の測定を行います。

新潟大学歯学部の教育課程については、「歯科医師育成にむけて教育課程の絶えざる改革の意欲を感じた」、「このような取組をもっとアピールする企画や機会を増やし、医療、教育などに国民の信頼を得られるようにしてほしい」とのご意見やご助言をいただきました。また、「技能教育への問題発見解決型学習の導入について具体的な方法が提示されず残念」との意見もいただいており、平成19年度も公開シンポジウムを引き続き開催するとともに、テーマとして技能教育と問題発見解決型学習を取り上げる予定としています。

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