シンポジウム報告

平成20年11月22日(土)に新潟大学歯学部講堂において、新潟大学特色GPシンポジウム「学生主体の三位一体新歯学教育課程〜社会に貢献する包括的歯科医師の育成を目指して〜」を開催しました。本シンポジウムのテーマは「歯学教育の評価のあり方」とし、香港大学、アメリカパシフィック大学、社団法人医療系大学間共用試験実施評価機構(CATO)、新潟大学それぞれにおける歯学教育の評価についてご講演を頂いた後、討論を行ないました。当日の参加者は43名で、その内訳は大学関係者40名、一般3名でした。

歯学教育の分野では、少子・高齢社会の進展による疾病構造の変化、患者や学生のニーズの高度化・多様化、生命科学の急速な発展、教育内容の国際標準化、さらには卒後臨床研修の必修化に伴い、卒前教育の役割を整理して、卒後教育や生涯教育との円滑な接続を考慮することの必要性が指摘され、その在り方についてさまざまな見直しが進められている。過密な記憶偏重教育はもはや過去のものとなりつつあり、学生が自ら課題を設定し解決する能動的な学習により、歯科医師に求められる知識・技能・態度をバランスよく身につける学習者中心の教育が注目を集めている。今回のシンポジウムでは、一昨年度のテーマ(PBLと知識教育)、昨年度のテーマ(技能教育のあり方)に続いて、特に歯学教育の評価のあり方に的を絞り、問題点と今後我々が採るべき方策を探った。

シンポジウムは本学医歯学系教授大内章嗣の司会により進められた。まず、新潟大学歯学部長前田健康より開会の挨拶があり、続いて特色GP支援下の3年間を総括し、その成果と今後の方向性について講演があった。

シンポジストの講演は以下の通りであった。香港大学歯学部は歯学教育においてPBLをいち早く導入し、現在も継続的にこれを行なっている。現在その歯学部長を務めているLakshman Samaranayake先生には、「Evaluating Dental Education: Assessment Methods in Problem Based Learning」と題して、PBLにおける評価のあり方について詳細にご紹介いただいた。現在アメリカパシフィック大学で口腔外科の教授を務めるAnders Nattestad先生には、これまで長期に亘りヨーロッパの歯科医学教育関連プロジェクト(DentEd)の中心的な役割を果たしており、その経験から「Assessment in and of dental education - A European perspective」と題して、歯学教育評価のあり方についてご講演いただいた。医療系大学間共用試験実施評価機構(CATO)の副理事長として多方面でご活躍中の福田康一朗先生には、「共用試験成績と学生評価」と題して、OSCE、CBTの結果とその解釈、学生の評価との関連などについて興味深いご講演をいただいた。最後に本学の医歯学系教授小野和宏が、「新潟大学歯学部歯学科の新教育課程とその評価」と題して、本学学生に対する具体的なアンケート結果を中心に、歯学教育の評価の妥当性等について講演した。


新潟大学 前田健康先生

講演の様子

左から香港大学 Samaranayake先生、パシフィック大学 Nattestad先生、
CATO 福田先生、新潟大学 小野先生

その後のパネルディスカッションではコーディネーターの新潟大学医歯学系教授齋藤功と魚島勝美の司会により、出席者を交えた活発な討論がなされた。評価の難しさについては参加者の多くが認識しており、本学の理事を務める前基督教大学学長の絹川正吉先生からは、討論することそのものが教育の評価であるとのご意見も頂いた。さらに、教育の評価は多方向であり、カリキュラムそのものの評価、学習者の到達度に対する評価、教員の評価等それぞれのあり方や、我々歯学部が目指すべき方向と国家試験との関わり等に関しても、その問題点が確認されたという点で、本シンポジウムは非常に異議深いものであった。


パネルディスカッションの様子
(上段右から2人目は通訳のロクサーナ先生、下段左はコーディネーターの齋藤先生と魚島先生、右は司会の大内先生)

シンポジウム終了後の参加者アンケートの結果、良いシンポジウムであったとの回答が75%で、またこのようなシンポジウムが開催された場合には出席したいという意見が96%に達していた。一方、昨年のシンポジウム報告で、開催の周知方法に課題があり、できるだけ多くの参加者を募るためには工夫が必要であると述べているが、今年も参加者が少なかったことは残念であった。その一因はシンポジウムの半分が英語での発表であったことで、それが制限となった可能性は否定できない。しかしながら、本シンポジウム参加によって海外の歯学教育事情を知ることができたことにも意義が見出せるという意見が多く、国際シンポジウムという形式は有意義であろう。

「現在の歯学教育評価は適切にされていると思うか?」という問いに対して、60%が分からないと答えている。これはとりもなおさず教育評価の難しさを表すものと考えられ、本シンポジウムで「評価」をテーマとして取り上げ、活発な討論が行なわれたことは有意義であったと思われる。今後もこのようなシンポジウムを継続的に開催する必要性を指摘するご意見もいただいているので、GP事業による支援がなくとも、積極的に開催することが重要であろう。

GP事業による本学歯学部の卒前教育に対する支援は今年度で終了するが、今後は今回の支援で得られた多くの経験や情報を基に、より一層の歯学教育充実を図るべきであることは当然である。本シンポジウムでは、一国の国内のみならず、世界中での歯学教育経験を有する海外からの講演者を招いて、非常に充実した討論が行なえた。日本の歯学教育は世界のそれに比較して、決して劣っているわけではないが、歯科界を取り巻く厳しい状況の中で教育を充実させるためには、世界のネットワークに積極的に参加し、情報を共有することの重要性も認識できたものと考えている。

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