『食べる』は人間の基本的な行動ですが、本能的なものであるため、知られていない部分が少なくありません。『食べる』何気なく行っているこの動作は、母親のおなかの中にいる胎児の時代から始まります。生れて直ぐにどうしておっぱいを飲めるのか、おっぱいをどのように飲むのか、どのように食べるのを覚えて行くのか、食べ物をどのように咬んでいるのか、味はどのように感じているのか、『食べる』についてちょっとあげただけでも、さまざまな疑問が出てきます。
新潟大学歯学部は、総合科目『食べる』を平成7年度から全学の教養科目として提供してきました。ブックレット新潟大学『食べる』は、この総合科目を基礎に作られたものです。
歯科はむし歯や歯周病の予防や治療、入れ歯を作るなどと一般には思われていますが、本来は生れてから死ぬまでの口腔(こうくう)の健康維持、簡単に言えば、一生涯楽しく食べるためのお手伝いがその役目です。
『食べる』では最先端の知識から常識のウソ、新潟の食べ物や食文化など、歯科だけではなく、いろいろな分野を含めて構成しています。『食べる』では、食べることのメカニズムはどのようなものかを、食べることと脳の働き、かむことと歯、そしてプディングの食べ方やビールの味わい方などを交えて解説します。また、長い人生、どのようにしたら楽しく食べていけるのかを、食べるための口腔の健康、食の病(やまい)、食べることの障害など、健康に食べるための情報とともに、縄文人の食生活や新潟のワイン、故郷など夢のある話まで、幅広く取り上げました。
「ブックレット新潟大学」は、新潟大学の博士課程の大学院が、教育研究活動の一端を社会に向けて発信し、地域貢献活動の一つとするために、現代社会文化研究科の発案で刊行が開始されました。ブックレットというのは小冊子という意味で、読みやすさを優先してこの形式が選ばれました。それぞれのブックレットは、中高校生から社会人までの広範な読者を念頭において執筆されています。
日本では、今、70歳、80歳のお年寄が増えて超高齢化社会になっています。こうしたお年よりが、「一番の楽しみは、おいしく食べること」と言っておられます。おいしく食べられるためには、口の中の状態がきちんとしていなければなりません。また、壮年期の方々が社会のために楽しく働き、楽しい老後を迎えられるためにも、この時期に口の中の環境が健康で、それらが長く維持される必要があります。
新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔生命科学専攻では、「食べる」「話す」をはじめ、さまざまな口に関連した体の機構・機能を、分子のレベルから、身体全体を見据えたマクロのレベルまで、多方面から研究し、国際的に評価を受けています。また、それらの成果をもとに、予防や治療の先端技術の開発・普及に努め、口の健康を守る歯科医療に貢献しています。
医歯学総合研究科口腔科学専攻では、このブックレットが皆様の健康に役立つことを心から願っています。