歯の移動時における漢方薬(ErigeronBreviscapus Co.)投与の効果についての実験的研究


劉 泓虎,花田晃治*
上海第二医科大学口腔医学院歯科矯正学教室(主任:劉侃教授)
* 新潟大学歯学部歯科矯正学教室(主任)


抄録;
 矯正治療における治療期間の短縮は治療上の重要な課題の一つである。治療期間の短縮は、治療の効率化や薬物の局所投与による歯の移動促進で行いうる。後者については、ProstaglandinE2 (PGE2) や漢方薬(Erigeron Breviscapus Co.(EBC))を歯肉内注射することにより歯の移動を促進させうるとされるが、注射による痛みは避けられない。
そこで、今回の研究では、痛みを伴わずに薬液を歯周組織深部に浸透させうるイオン導入法によりEBCを局所投与した場合と、歯肉内注射した場合とにおける歯の移動速度と歯周組織の組織学的変化の違いについて検討した。また、PGE2を歯肉内注射した結果とも比較検討した。
 材料と方法:若兎を10匹ずつ、 EBC歯肉注射群とイオン導入群、PGE2 歯肉注射群、生理食塩水歯肉注射群とイオン導入群に分けた。歯の移動は、矯正用ワイヤーにより、下顎の左右切歯に装着された矯正用チューブにかかる側方への拡大力が50 g になるように調整した。イオン導入群では、イオン導入装置の負極を左手腕部に設置し、正極は鉛板に綿を取り付け、この綿に薬液を0.4 ml/1 回浸透させて下顎切歯唇側歯肉にあて、0.2 mA 15分間通電した。歯肉注射群では、兎の左右下顎切歯間の唇側槽間中隔部に0.4 ml/1回歯肉内注射した。薬液投与は実験開始から 2,4, 6, 8, 10, 12 日目の計6回行い、14日目に左右側下顎切歯間距離を計測して、歯の移動促進効果を調べた。その後、断頭し、浸漬固定した後に脱灰した。脱灰後、通法どおりの処理を行ってパラフィンに包埋し、ミクロトームにて連続切片を作製して、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った後、下顎切歯部歯周組織を光学顕微鏡下にて観察した。

結果:
 実験開始から14日目の左右側下顎切歯間の平均距離は、EBCイオン導入群で 4.28 mmと他の群と有意の差をもって大きかった。また、他の群と比較してEBCイオン導入群で、牽引側における血管の造成が顕著に認められ骨形成も活発であった。一方、圧迫側においても他の群と比較して吸収窩が多数観察された。
 以上のことから、EBCのイオン導入は歯の移動に伴って生じる骨の改造を活発化させ、その結果、歯の移動を促進させることが示唆された。


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