―原著―

パノラマX線写真における上顎部及びその周辺構造の読影・診断に関する今日的課題についての考察
その1:上顎洞癌・上咽頭癌症例の初期経過と読影上の問題点についての検討


中山 均
新潟大学歯学部歯科放射線学講座
(主任:伊藤寿介 教授)


抄録:
 【目的】CTやMRI装置がほとんどの総合病院や大学病院に設置されている今日のパノラマ診断の課題として「一次医療施設における悪性疾患の検出」という観点から,特に上顎部及びその周辺の読影に関する諸問題を検討する。【対象と方法】歯学部・医学部付属病院受診の38例の上顎洞癌と25例の上咽頭癌症例の臨床症状,初期経過を検討し,さらにこれらのうちパノラマ写真が撮影された17例の画像所見を解析した。【結果】少なくない症例において開業医院等で不適切な処置がなされていた。パノラマ写真は撮影されていても重要な所見が見逃されていた可能性が示唆された。パノラマ写真が撮影されたものを検討すると,いくつかの解剖学的構造に注目することによってほとんどの症例で悪性病変の存在診断は可能であった。【考察】一次医療の場で上顎部およびその周辺構造に重篤な病変を持つ症例を検出するためには,(1)頬部腫脹や鼻・眼症状を伴うような場合,神経症状のある場合,デンタル写真で洞底線に異常のある場合,症状があるにも関わらず得られたデンタル写真で明確な所見がない場合などではパノラマ写真が撮影されるべきである。(2)得られたパノラマ写真では,歯科医として日常的に注意していると思われる「洞底」の線に加え,「洞後縁」「硬口蓋」「頬骨突起」,さらに「翼状突起」などの構造を対側と比較しながら観察することが重要である。


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