一原著一

口腔細胞診における偽陰性および偽陽性に関する検討
鈴木  誠1,2),朔   敬1,2)
1)新潟大学歯学部附属病院病理検査室
(室長:朔  敬 教授)
2)新潟大学歯学部口腔病理学講座
(主任:朔  敬 教授)


 抄録:口腔領域の細胞診における偽陰性および偽陽性の発生要因とそれを避けるために必要な要件について検討した。偽陰性および偽陽性の主たる要因は標本の不良と細胞判定の誤りであるが,偽陰性は前者によるものが多く,主に細胞数が少ないこと,細胞の重なり,血液細胞による被覆,標本の乾燥等の技術的問題が原因となっていた。とくに標本に目的とする細胞が認められない例が多いことは検体採取および塗抹の過程の不良に起因すると考えられ,この段階の処理方法を改善することが必要と思われた。細胞判定の誤りによる偽陰性は,異型細胞の見落とし,細胞異型度の過小評価,癌細胞を非上皮性細胞と誤認すること等により生じた。偽陽性は組織生検の検体採取または標本作製過程に問題があったと考えられる場合と,細胞判定の誤りの結果として生じている場合があった。細胞判定の誤りによる偽陽性は異型度の過大評価や変形した非癌細胞を癌細胞と見誤ることにより生じた。標本の不良により細胞形態の判定が困難な場合にはクラス分類は行わず,判定不能とするべきである。このような場合は診断書で必ず指摘し,必要な再検査等の事後処置を指示するのがよい。正確な診断のためには細胞判定に先立って標本状態の評価を行う診断システムを確立することが有用であると考えられる。
目次へ