CASE 1
Bimaxillary protrusion





(Japanese)
上下顎前突症例の一治験例 A case report of bi-maxillary protorusion
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I.はじめに
- 1st.phaseに前歯の反対咬合と開咬の治療のために顎整形力としてチンキャップを使用し経過観察後、2nd.phaseに上下第一小臼歯を抜歯しマルチブラケットにて治療した症例を報告する(なお、前医が大学を退職のために、2nd.phaseの治療から本症例を引き継いだ)。
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II.症例
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主訴:前歯の反対と開咬
初診時年齢:9歳1カ月の女子
一般所見:身長132.0cm体重28.5Kg、健康状態はおおむね良好であるが偏桃腺の肥大による口呼吸が認められる。
家族歴:特記すべき事項はない。
顔貌所見:正貌所見は対称で偏位は認められない。側貌所見では安静時に下顎はやや前方位にあるが、この下顎位は口呼吸の既往と舌の前方位が関与していると思われた。また、口唇の閉鎖時にはオトガイが緊張し下唇が突出する。
口腔内所見:Dental ageはIIIBで大臼歯の関係はAngle Class Iである。前歯のoverjetは-3mm、overbiteは-2mmで左右側ともに第一小臼歯部に及ぶ範囲までがopenbiteである。tongue
thrustが認められる。
口腔内x線所見:永久歯の歯数の異常は認められないが、下顎前歯の歯根膜腔がやや拡大している。
頭部x線規格写真所見:SNAは85.5°SNBは84.0°ANBは1.5°で歯槽基底の前後関係はわずかながら下顎前突傾向を示す。FMAは31.5°Gonial
angle 130.5°と大きめで下顔面高がやや高い。U1SN114.5°IMPA96.5°II116°と上下前歯歯軸の唇側傾斜が強い。
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1.診断および治療方針
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上下顎前歯の唇側傾斜を伴った軽度の骨格性開咬および下突咬合。Angle Class
I。
治療方針は1st.phaseの治療において、主訴である前歯部の反対咬合と開咬を治療し、2nd.phaseの治療で叢生の解除を含めた個々の歯の配列を行うこととした。
1st.phaseの治療では、下顔面高に配慮しながら前歯の被蓋の改善を行うことに留意し、使用する装置は、顎整形力を期待してhigh
pullチンキャップとした。
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2.治療経過
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1st.phase治療(9歳1カ月〜13歳4カ月)
開始時年齢は9歳1カ月で、始めは牽引方向をhigh pullにしたチンキャップをfull
timeで使用するように指示した。このときの平均装着時間は22時間であった。約4カ月で
overbiteが1.0mmになったため使用を就寝時のみとし6カ月間続けた後完全に中止した。その後約1年間成長観察したが、11歳2カ月時にoverbiteが0mm、overjetが0.5mmになったためチンキャップを再開し9カ月間full
timeで使用、その後2年間就寝時のみ使用した。したがって通算のチンキャップ使用期間は、full
time13カ月間、就寝時のみが30カ月間でトータル3年9カ月に及んだ。
2nd.phase治療(15歳7カ月〜18歳0カ月)
1st.phase治療後1年3カ月間成長観察した後、叢生の改善のため2nd.phase治療を開始した。この時点で臼歯関係はAngle
Class II、前歯被蓋関係はoverjet 2.0mm, overbite 0.5mmであった。
1)Leveling(2カ月)
44|44 抜歯後、エッジワイズ装置を装着しNi-Ti系ワイヤーにてlevelingを行った。
2)Canine retraction(9カ月)
Arch wireを016"ステンレスワイヤーに換え、上顎犬歯はopencoil springを、下顎は35│53間にパワーチェーンを使い遠心移動を行った。
4)Anterior retraction and consolidation(5カ月)
上下顎とも017×025"ワイヤーにV-loopを組み込んだものを使用した。左右53の近遠心にV-loopを組み込み、初めは遠心のみactivateし臼歯をI級にした。顎間ゴムはClass
II elasiticsを4カ月間使用し、正中を合わせるためにoblique elasiticも2カ月間使用した。
5)Ideal arch(8カ月)
上顎は018×025"ワイヤー下顎は017×025"ワイヤーで仕上げを行った。このとき顎間ゴムはClass
II elasiticsを3カ月間使用しup and down elasiticsを5カ月間使用した。
6)Retention
保定は上顎にcircumferencial type retainer,下顎にlingual bonding retainerを使用した。保定期間は23カ月間
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3.治療結果
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1)1st.phase治療
顔貌所見:正貌では特に変化は認められない。側貌ではオトガイ部の突出感はなくなったが、上下口唇の突出感は変化していない。
口腔内所見:大臼歯はI級からII級へと変化した。overjetは-3.0mmから2.0mmへ、overbiteは-2.0mmから0.5mmへと変化した。
口腔内X線所見:下顎前歯の歯根膜腔がやや拡大している。下顎の8|8が存在する。
頭部X線規格写真所見:SNAは85.5°から86.0°に、SNBは84.0°から83.0°に変化した結果ANBは1.5°から3.0°になった。FMAは31.5°から29.5°へと、Gonial
angleは130.5°から126.0°へと減少した。U1SNは114.5°から116.5°とやや唇側傾斜し、IMPAが96.5°から92.5°と下顎前歯がやや舌側傾斜した結果、IIは116.0°から117.5°へと変化した。
2)2nd.phase治療
顔貌所見:正貌は左右対称であるが、側貌において口唇の突出感は残っている。
口腔内所見:大臼歯はI級関係に咬合しているが左側犬歯の被蓋が浅い。前歯のoverbiteも0.5mmと浅めである。
口腔内X線所見:歯根はほぼ平行で歯根吸収もほとんど認められないが、下顎の8|8が存在し埋伏の可能性がある。
頭部X線規格写真所見:SNAは86.5°で2nd.phase治療中に変化はなかったが、下顎の成長によりSNBは82.5°から84.0°に変化しANBは4°から2.5°になった。FMAは28.5°から27.0°へ、Gonial
angleは124.0°から125.0°となった。U1SNは116.0°から106.0°にIMPAが95.0°から83.0°となり、IIは139.0°と上下顎前歯歯軸の関係は改善した。overjetは3.0mmから2.0mmへ、overbiteは0.5mmから1.0mmへと変化した。
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4.保定後の所見
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顔貌所見:保定1年11カ月経過しているが、大きな変化は認められない。
口腔内所見:下顎の8|8は正常に萌出したが咬合する歯が存在しないため、過萌出する可能性がある。
頭部X線規格写真所見:保定中も軽度の下顎骨の成長によりSNBは84.0°から84.5°に変化しANBは2.5°から2.0°になった。上下顎前歯の唇側傾斜でU1SNは106.0°から108.5°にIMPAが83.0.0°から86.0°となりIIは139.0°から134.0°へ変化した。overjetは2.0mのままだが、overbiteは1.0mmから0.5mmへと変化した。
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5.まとめ
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1)1st.phase治療の意義について
今回、Gonial angeleとFMAがやや大きく下顔面高が高いことから骨格性の開咬と診断し、1st.phaseの治療で顎整形力を期待してハイプルチンキャップを用いた症例を紹介した。広瀬ら1)は成長期の患者の開咬に対するハイプルチンキャップの効果について、Gonial
angle,Mandibuler plane angle(FMA) を小さくするが、posterior bite blockを使用しない場合に上顎前歯の唇側傾斜が起こりやすいこと、また牽引方向をvertical
pull でなくhigh pullにすることによってIII級の改善がされると述べている。本症例ではposterior
bite blockなしで牽引方向をhigh pullとして使用した。その結果22時間使用という患者の協力もあり、最初の4カ月でoverbiteは1.0mmになった。図に示したように、下顎は下方へ成長していて角度的にはGonial
angleは130.5°から126.0°へ、FMAは31.5°から29.5°へと変化し、ANBは1.5°から3.0°になった。上顎前歯は下顎前歯の突き上げにより唇側へ傾斜していた。これらの所見は広瀬らの報告とほぼ同様で、ハイプルチンキャップの顎整形力に対する生体の反応と考えられる。しかし、ハイプルチンキャップの効果と思えるこのような硬組織の変化は、本症例において、矯正治療上どのような意味を持つであろうか?1st.phaseの治療後も、口唇閉鎖時に下唇の突出感のある顔貌に変化はなく、軟組織の改善はなされていない。また、大臼歯関係はI級からII級へと悪化しており、必ずしも治療のゴールへと近ずく方向の変化をもたらしていない。与五沢2)は混合歯列期の治療について、その終末処置に相当する永久歯列期での矯正法と一体となって、乳歯列から永久歯列期のすべてにわたる一連の治療理論と体系の中の一環としてあるべきだとしている。永久歯列期での矯正治療のゴールをある程度予測したうえで、1st.phaseの治療計画がなされていないことが、チンキャップの中止と再使用を繰り返す結果を招き、1st.phaseの治療期間を長める結果になったのではないかと考えている。
2)2nd.phaseの治療について
矯正治療の目標の一つとして「自然で良好なProfile」の獲得があげられる。本症例では、2nd.phase治療後にも口唇の突出感がのこっている。このケースでも前歯の後退量を多くすれば口唇の突出感は解消できたであろうか?。与五沢3)は矯正治療後の軟組織側貌の変化について、治療前のclosed
lip とrelaxed lip から予測する具体的な方法について述べている。その中で治療前のclosed
lip とrelaxeded lip との間で口唇の形状の差が著しい症例は、治療後の歯牙移動に伴う形態変化もまた大きいが、逆にclosed
lip とrelaxed lip との間で口唇の形状の差が少ない症例の場合、治療後の軟組織の形態に変化が現れにくいことを述べている。本症例は、治療前のclosed
lip とrelaxed lip との間で口唇の形状の差が少なく、relaxed lip でのinterlabial
gap が小さく口唇が余ったタイプであることからどんなに前歯の後退を行っても軟組織の形態には変化が現れにくい症例であると思われた。また咬合状態ではup
and down elasticsを使用したにもかかわらず、犬歯部も含めてoverbite は浅いまま終了し、保定中にわずかではあるがさらに浅くなっている、口唇の状態から前歯の唇側からのサポートが弱いタイプであることが伺われ、ワイヤーの屈曲などの工夫によりover
correctionすべきであった。なお、2nd.phaseの治療は身長の増加が止まり成長のほぼ終了してから開始しているが治療中にも下顎は前方へ成長していた。