どうして矯正治療では抜歯をするの? 


矯正治療において抜歯は避けられるものなら避けたいとすべての矯正科医が思っていることです。
しかし、治療の及ぼす顔面形態,咬合や筋肉への影響、治療手順,治療期間,治療予後などを十分考慮すると現実には非抜歯で治療できる症例は限られてきます。
1)

過去に抜歯の頻度を報告したもので代表的なもの
 根津2)の報告では,1988年10月から1991年3月までに治療した559症例中非抜歯で治療した人は34%にすぎず,この値は予想以上に低く感じられ,抜歯頻度の高い日本人症例の宿命かと述べています。
 また戒田ら3)は1971年-1996年の25年間から5年ごとに対象年度を選び,その間に治療した一般矯正患者1,017名の抜歯頻度を調査した結果,1971年60.3%,1976年77.7%,1981年75.2%,1986年70.1%,1991年65.6%,1996年63.4%であったと報告しています。
 その中で日本人に抜歯症例が多いのは,白人よりも鼻部やオトガイ部の軟組織の発達が弱いため上下口唇の突出感が強い傾向が認められること,日本人では白人と異なり矯正治療によって上下口唇が後退することを望むものが多いため,白人よりも抜歯適応症例が多くなると推測しています。

根津の報告と戒田らの1991年の結果で非抜歯症例の数を比較すると,それぞれ34%,34.4%とほぼ同じような数値でした。

 新潟大学歯学部附属病院矯正科に来院した患者さんで1992年1月-1993年12月の2年間に,口蓋裂などの先天異常や顎変形症患者,診断後に治療を希望しなかったものや,転医などの理由により資料が不備であったものなどを除いた388名を調査対象とし,II期治療(永久歯列期)における抜歯の頻度について調査した結果を示します。
 
388名中非抜歯で治療した症例は27名,7%でした。咬合異常別に
非抜歯症例の数をみると,上顎前突では180名中4名で2%,下顎前突では100名中16名で16%,それ以外の叢生や上下顎前突,開咬などの症例では108名中7名で7%でした。このことは,非抜歯による治療によって上顎前突ではII級の臼歯関係を改善することが成長がない限り非抜歯ではできにくいこと,それに比べ下顎前突では治療のシステムとして非抜歯でもIII級の臼歯関係を改善しやすいことが挙げられます。
 
 当施設での結果を根津や戒田らの報告と比べると非抜歯で治療した症例が極端に少なくなっていました。この結果は,地域差,施設間での考え方の違いに加え,今回の調査結果の中にはI期治療(混合歯列期での治療)を行いII期治療(永久歯列期の治療)が必要でなかった症例が含まれていなかったこと,さらに当施設で混合歯列期に来院し,I期治療を行った患者やII期治療までの間に経過観察を行った患者のうちII期治療開始時までに治療を希望しなかった者が約3割,実数で115名もいたことも原因の一つであると考えられます。


参考文献
1) 1)与五沢文夫:Edgewise System Vol.1 プラクシスアート,
クインテッセンス出版,東京,2001.
2)根津浩:矯正治療における抜歯,非抜歯の判定に考慮するべき事項,
日臨矯誌 7:4-23,1996.
3)戒田清和,磯野浩昭,井本貴之,他:鶴見大学歯学部附属病院矯正科の過去25年間における抜歯部位および頻度についての検討,
日矯歯誌 57:103-106,1998.