ご挨拶

はじめに

教授 高木 律男

 私どもの顎顔面口腔外科学分野(旧:口腔外科学第二講座)は、前任の大橋靖教授のもとで1973年12月に開設されました。1998年3月にて大橋靖教授が定年退官され、同年12月より高木が引き継がせていただいております。2001年には大学院大学となり、講座名が新潟大学歯学部口腔外科学第二講座から、新潟大学大学院医歯学総合研究科健康科学講座顎顔面口腔外科学分野となりました。それに伴い、診療科名も第二口腔外科から、顎顔面口腔顎外科診療室となっています。名称は変わりましたが、歯学部学生と大学院生教育はもとより、医歯学総合病院の口腔外科および歯学研究者として、開設当初より40年以上にわたり、口腔外科学の全般に亘って切磋琢磨しております。

 以下に、ご紹介いたします内容に興味がありましたらいつでも連絡してください。

臨床について

 口腔外科では、抜歯に代表される歯科領域の外科的処置を担当していますが、顎顔面口腔領域に発生する疾患全てについて、正確な診断の上に立ち適切な処置を施行することが求められるため、広い知識と経験が求められます。当科は、(社)日本口腔外科学会の認定指導施設(1012号)として、数名の指導医の監督下で診断・治療を行うとともに、専門医、認定医を育成しております。近年、各診療科でもより専門性の高い治療を行う傾向にあり、当科でも多岐にわたる口腔外科疾患の中から、口唇裂・口蓋裂、口腔腫瘍、顎関節、顎変形症、等について、臨床と研究および教育を構成員により分担しております。それぞれの特色について簡単にご紹介します。

唇顎裂・口蓋裂

 先天奇形である唇顎口蓋裂に対するHotz床(哺乳床)併用二段階口蓋形成法による集学的管理体制が、1982年から大橋靖教授を中心として開始され、1989年からは歯科全体のチーム医療(各専門分野の先生がそれぞれの専門性を生かして協力して治療にあたる)に広がり、現在でも継続されています。私どもはその中でHotz床に始まり、唇、軟口蓋、硬口蓋、顎堤部、鼻の形成手術を担当しており、出生から成人までお付き合いさせていただいています。また、2014年からは本学とミャンマーのヤンゴン歯科大学との姉妹校提携に基づく「口唇裂・口蓋裂を中心とする口腔外科手術に関する医療支援」を行っており、今年も12月末に1週間、歯科麻酔科の先生方とともに支援活動を実施しました。

口腔腫瘍

 顎顔面領域に発生する腫瘍性疾患は良性腫瘍から前がん病変、口腔がんなどその性格は多岐にわたり、まずは正確な診断を下し、適切な処置を適切な時期に行う事が大切です。そのために、口腔病理診断科、歯科放射線科等の先生方と診断を行うとともに、歯科麻酔科および医科の形成外科、放射線科をはじめとする多くの科の先生方と協力し、適切な診断と治療を行っています。なお、当科には日本がん治療認定医機構が認定するがん治療認定医(歯科口腔外科)が在籍し、日本口腔腫瘍学会の研修施設として認定されています。

顎関節疾患

 医歯学総合病院では顎関節治療部(高木が部長を併任)が立ち上がり、各診療室の協力のもと顎関節症を中心とする顎関節疾患の診断(週1回の合同症例検討会)と治療を行っております。当科では、顎関節疾患全体の外科的対応を中心に担当させていただいており、顎関節部の外科処置(腫瘍、習慣性脱臼など)、関節腔への針による穿刺療法(腔内洗浄、薬液注入、等)など、より専門性の高い治療も行っております。顎外科および顎関節治療部ともに顎関節学会認定の指導医が在籍し、研修施設に認定されています。

顎変形症

 上下の歯のかみ合わせが悪かったり、あごが曲がっていたりで、矯正治療のみでは、十分な改善が見込まれない場合には、あごの骨を手術により移動させることにより、かみ合わせや顔貌を改善させることが可能となります。治療においては、歯の矯正治療を行う矯正歯科診療室の協力体制と綿密な検討のもとで手術を行っています。

研究について

 当科では、口唇裂・口蓋裂、口腔腫瘍、顎関節、顎変形症、インプラント・組織再生に関わる診療班を形成し、大学院生の指導もふくめて研究しています。その他に、医歯学総合病院が北関東甲信越地区のエイズブロック拠点病院となっていることから、医科との連携のもとHIV感染者の歯科治療のコーディネートも担当しており、唾液中のウイルスに関する研究・唾液を用いた抗ウイルス薬濃度の測定なども行っています。
・口唇裂・口蓋裂
 1983年から二段階口蓋形成法による集学的管理体制を展開しており、本体制に関わる顎発育や鼻咽腔閉鎖機能などの形態的、機能的解析を行っております。また口唇裂・口蓋裂の発生に関わる遺伝子解析研究も推進しており、今後の発展が期待されます。
・口腔腫瘍
 口腔領域の悪性腫瘍で最も多い扁平上皮癌を中心に、診断・治療・予後に関する多岐にわたる研究を推進しています。主な研究としては口腔扁平上皮癌の網羅的遺伝子発現解析を実施して、予後判定因子として有用なバイオマーカーを用いた臨床研究を推進しています。これによって従来制御することができなかった遠隔転移や局所再発をきたす高度悪性癌を転移巣や再発巣を形成する以前の早期癌の段階で鑑別し、抗腫瘍剤による化学療法や放射線療法の選択的施用(個別化)による癌制御率向上を目的にしています。現在これまでの研究成果の実用化を目的として、他大学病院との多他施設共同臨床研究を実施中です。
・顎関節疾患
 顎関節は人の体の中で左右一対が同じ骨でつながっている唯一の協働関節であり、その特殊性から顎関節に特有の疾患、例えば顎関節症や希な腫瘍性疾患、また顎関節脱臼など様々な疾患が認められます。当科では、顎関節症における疫学調査やその病因と発症機序に関する研究、腫瘍性疾患における症例の蓄積を元に適切な治療を行っております。また、近年は原因不明の下顎頭吸収および関節脱臼に対して、顎関節治療部ととともにその治療および原因究明に向け取組を行っております。
・顎変形症
 顎矯正手術は規格化された手術として確立され、安全かつ短時間での施術が可能となってきています。しかし、術後に何らかの機能障害を来す場合や予期せぬ偶発症に遭遇したという報告も多く、こうしたリスク回避に対する尽力に終わりはありません。当科では診断や治療の精度向上を目指す一方で、患者様が安全に安心して顎矯正手術に臨めるよう、臨床的な研究を通してこうした問題に取り組んでいます。また、オーダーメードの人工骨移植を行い、生まれつきに有している顎骨の変形や、手術後に生じた顎骨欠損症例に応用しています。
・歯槽骨・顎骨再生医療とインプラント
 近年、疾患の結果失われた顎骨や歯の再建は口腔外科領域では非常に重要なテーマとして扱われています。当科では患者さんご本人から採取した顎骨の骨膜を新潟大学医歯学総合病院内のバイオクリーンルームで培養して、歯槽骨・顎骨への移植に用いる培養自家骨膜による歯槽骨・顎骨再生医療の臨床試験を実施し、質的、量的に細胞の豊富な良質の再生骨が得られることが明らかになってきています。この歯槽骨・顎骨再生医療技術について今後は国の認可を取得して新潟大学独自の再生医療としての実用化を目指しています。また、基礎研究においては、培養条件の至適化による、培養期間の短縮と製造された培養自家骨膜細胞の骨形成能を高める研究を進めています。これまでに無血清培地の採用と骨芽細胞への分化誘導によって骨形成能の強化が確認されており、将来的にその安全性と効果を検証したうえで、骨再生医療における安全性と低侵襲性を高めた次世代の培養自家骨膜による歯槽骨・顎骨再生医療技術の臨床化を目指しています。

 各診療班の研究テーマについては毎年の論文、学会発表、科研費申請などをご覧いただくと、より詳細な内容を御理解いただけると思います。

教育について

 学生教育では、まず4年次に口腔外科学I、IIにおいて、口腔顎顔面領域に発生する多くの疾患についての診断を確実に行えるようにすることを第一目標として知識の研鑚を積んでもらいます。そして5年次の顎顔面診断学において、PBL(課題解決型学習)形式の患者対応を通して病態から診断名および適切な治療法を導き出すことを学び、6年次の臨床実習において、実際の患者様での診断、治療方針の立案に望みます。また、6年次には、知識のみでなく技術、態度として、外科処置を行う上で必要なインフォームドコンセント、術前、術中、術後管理を含めた臨床実習を行っています。

 研修医教育においては、歯科医師免許取得後ですので、それぞれが選択したコース内において、外来での診断や小手術、入院患者さんの全身麻酔下での手術や術後管理を経験していただきます。さらに、研修医終了後に口腔外科に興味がある場合には、(社)日本口腔外科学会の認定医制度における専門医制度(専修医、認定医、指導医)に基づき、指導医数名がチーム医療として患者様の診断、治療にあたることで、口腔外科医としての資質を養ってもらいます。そのために、1年目に歯科麻酔科での全身麻酔や全身管理の研修を4か月行い、その後は口腔外科外来での診断、外来小手術等の他、病棟での入院患者さんの管理、全身麻酔下での手術、術前・術後管理などをチーム医療として学びます。入院患者さんと長い時間接することで、医療の中における歯科の位置付け、医療の役割などについて身を持って体験できると思います。口腔外科を一生続けないまでも、この時期にこの様な機会を体験できることは、医療人として一生を過ごす諸君にとって必ず役に立つことは間違いありません。その他、専門性を活かすために、前述の日本口腔腫瘍学会認定の研修施設、日本顎関節学会認定の研修施設であるとともに、日本有病者歯科医療学会における研修施設にも認定されており、多方面での研修を受け専門医や指導医取得が可能になっています。