研究推進機構超域学術院 歯周 - 全身プロジェクト 山崎研究室

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研究概要 Research Brief

研究内容の紹介

歯周病と動脈硬化症の関連

歯周病が狭心症・心筋梗塞や脳卒中の主な原因である動脈硬化症のリスク因子となることが多くの疫学調査により示されています。歯周病原細菌による慢性感染が全身に軽微な炎症を持続させ、動脈硬化症を悪化させると考えられています。歯周炎患者において動脈硬化症のリスクマーカーとされている血清高感度CRPが上昇していること、歯周治療によりその値が低下することを我々の研究グループは報告しました。また、動脈硬化症の古典的なリスク因子として知られる脂質異常症について、歯周炎患者においてHDLコレステロールが低下していることを報告しました。歯周病原細菌の感染が全身における炎症反応、脂質代謝のいずれにも影響していると考えられます。

我々はこれら臨床データの因果関係を解析する目的で、C57BL/6 (wild-type)とC57BL/6.KOR-Apoeshl (B6.Apoeshl)という 2系統のマウスを用いて5週間の短期感染および21週間の長期感染実験を行いP. gingivalis口腔感染の全身に及ぼす影響を検討しました。その結果、血中のIL-6、急性期タンパクSAAは上昇し、長期感染ではさらなる上昇が認められました。また、HDLコレステロールレベルは低下しました。in vitroの実験からIL-6 は脾臓や顎下リンパ節などの二次リンパ組織で、SAAは肝臓で産生され、感染による肝臓における脂質代謝関連遺伝子の発現変化がHDLコレステロールの低下に帰結することが明らかになりました。ここで得られたデータを基盤にして、現在、歯周炎と動脈硬化症の関連メカニズムについてさらに詳細な解析を進めています。

歯周病の免疫学的病態解析

歯周炎における歯周組織破壊は細菌および細菌産生物に対する免疫応答やその結果生じる様々な炎症メディエーターが原因となって起こります。免疫には自然免疫と獲得免疫がありますが、後者は前者と異なり高い特異性を有すること、免疫記憶することが知られており、慢性炎症性疾患である歯周炎の病態に非常に重要だと考えられています。歯周組織における獲得免疫系の細胞成分としてはリンパ球、抗原提示能を持った樹状細胞およびマクロファージが、液性成分としては抗体分子が挙げられます。我々はその中でも、CD4+ ヘルパーT細胞(Th1、Th2、Th17)、制御性T細胞、NKT細胞、歯周病原細菌に特異的な抗体分子について歯周炎病態との関連を解析してきました。しかしながら、歯周炎病態における獲得免疫系の役割は非常に複雑であり、未だ不明な点が多いのも事実です。我々は今後も、細胞や動物モデルを用いて、病態を免疫学的に解明していく予定です。

Porphyromonas gingivalisの特性

歯周病原細菌の一つであるP. gingivalis由来の内毒素 (LPS)は、腸内細菌と比べて毒性や宿主細胞に対する炎症性サイトカイン誘導能が低いことが報告されています。LPSは微生物抗原を認識するToll様受容体 (TLR)により認識され、そのシグナルは細胞内で伝達され、結果として炎症性サイトカイン等が産生されます。その一方で、TLRシグナリングに抑制的に作用する調節因子の存在も報告されています。我々の研究グループではP. gingivalisの LPSが、TLRシグナリングの調節因子の一つであるIRAK-Mの発現を上昇させることで、そのシグナリングを抑制し、炎症性サイトカイン産生を減少させていることを明らかにしてきました。それによりP. gingivalisが宿主の免疫応答から逃れることで歯周炎の慢性化に関与する可能性が考えられ、さらに詳細な解析を進めています。

歯周病における経口抗菌療法

歯周病はプラーク中の細菌による感染症です。進行した歯周病の治療においては、浸潤麻酔下でのスケーリング・ルートプレーニング(SRP)を行い、プラークや歯石を機械的に除去します。しかしながら、このような治療後においても歯周ポケットが残存した場合、継続的な歯周病安定期治療により歯周病の活動性を低く維持する必要があります。歯周病安定期治療中に活動性歯周ポケットが認められた場合、再度のSRPの適応となりますが、全身疾患の問題から浸潤麻酔や観血的処置が難しい患者様がいるために侵襲の少ない治療法の開発が求められています。歯周病の治療には経口抗菌薬も使用されますが、従来の抗菌薬は歯周組織への移行性が低かったりプラーク中細菌に対する抗菌力が弱かったりすることが問題点としてありました。新規のニューキノロン系抗菌薬であるシタフロキサシン(グレースビット®)は、良好な歯周組織移行性と強い抗菌力を有しています。我々の研究グループでは、歯周病安定期治療中の残存歯周ポケットに対するシタフロキサシンの効果をSRPのものと比較したところ、どちらの治療群でも歯周ポケット値および歯周ポケット内のRed complex bacteria(歯周病に最も関連のある病原細菌群)の対総菌数比率が減少しました。抗菌薬を用いた臨床研究については現在も継続して行なっています。

共同研究者および研究施設 (海外)

Eyal Raz, MD

  • Division of Rheumatology, Allergy and Clinical Immunology, Division of Infectious Diseases, University of California San Diego, School of Medicine

George Hajishengallis, DDS, PhD

  • Department of Microbiology, University of Pennsylvania, School of Dental Medicine
  • Division of Oral Health and Systemic Disease, Department of Periodontics and Department of Microbiology and Immunology, University of Louisville Health Sciences Center

Bruce A Beutler, MD

  • Department of Genetics, The Scripps Research Institute

Cornelia M. Weyand, MD, PhD

  • Division of Immunology and Rheumatology, Stanford University School of Medicine
  • Lowance Center for Human Immunology, Emory University

Gregory J Seymour, PhD

  • Faculty of Dentistry, The University of Otago
  • Oral Biology and Pathology, School of Dentistry, University of Queensland