講演会報告

「顎関節症の診断と治療」

25期生中村純一


平成7年ll月l2日(日)に、新潟県歯科医師会館で、「顎口腔系の機能異常と治療」というテーマのもとに、卒後研修セミナーとして学術講演会が行われました。講師は東京都で開業されている中沢勝弘先生と、岡山大学歯学部歯科補綴学第一講座助教授の矢谷博文先生でした。
当日は午前中2時間半中沢先生、午後に2時間半矢谷助枚授の講漬で、会場いっぱいの先生方が熱心にメモをとりながら聴講していました。
午前中の中沢先生はkey wordとして、顎関節症は複合疾患で、一見診断治療は難しいものと考えられがちだが、これを関節包内疾患、関節包外疾患、精神系疾患の3つに分けると診断治療の選択が行えることがわかりやすく解説されていました。特に関節包外疾患として筋肉の異常を挙げ、基礎知識としての解剖学や生理学の必要性を示唆されながら解説なされ、卒業して一年目の私としてはこれからの勉強研究の大切さを感じました。さらに筋肉の異常として筋緊張充進には外傷としての患者自身のもつパラファンクションの素質つまり遺伝的影響が大で、この素質の見極め方があいまいなことが示唆され、これからの研究の1つではないかと感じました。精神ストレスに対して、患者さんの話(発病約1年以内に転勤引越桔婚などがなかったか?など)を積極的に聞くことの大切さを説明なされ、人間は心と外部環境が相互に影響していることを考えて治療することを述べていました。具体的な治療としては、顎関節の治療のフローチャートに従って、患者さんの治癒能力を妨げる要素(外傷など)を取り除き、関節後部の圧迫をなくす(筋機能異常を除いて)ために、スプリント療法を用いて行い、このとき関節円板の整位を目的としてあまり行わないことを強調なされていました。
午後の矢谷先生はkey wordとして顎関節症は病態に関わらず保存的治療(関節への負荷をなくす)で軽快できる疾患とし、顎関節症の治療のゴールを最初にイメージする事の大切さを示唆されていました。顎関節はbio activeであり、不可逆的治療(咬合治療)はあまり行わないといわれていました。具体的には、病態把握のためにTMJに対して開閉運動量、圧痛、筋肉に対して指先(lcm弱)でl.5kgの力を加えて閾値をみて判断していると説明なされていました。その各々の病態に対して薬物、TENS、アプライアンス療法(スタビライゼイションスプリント)により治療の第一目標を行い、疼痛が消失、40mm以上開口、何でも咀嚼でき、口腔習癖コントロールできたら治療必要か診断し、咬合治療が必要か否かを判断し、下顎位の変化、splintへの依存度、息者の満足度により決定すると言われていました。又根拠のない、まあやってみよう式の咬合治療は危険であるが、特に低位の場合には必要になるともいわれていました。
以上のようにお二人のご講演から病態を把握し、診断を行い、その病態に応じて治療法を行えば良いことが示唆されたと思います。さらに又咬合再構成を行う場合には、これを必要か否かの診断する基準がないので注意して行うことも示唆されたと感じました。この講演を今後の臨床へ活かしていきたいと思いました。
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