単位制への移行

カリキュラム編成委員会委員長　　　山　田　好　秋

　歯学部では、平成8年度入学者から単位制を導入することになり具体的な作業に入っています。単位という言葉は教養教育の時には頻繁に耳にしたが、学部に来てからは聞いたことが無い、というのが大方の学生諸君の反応だろうと思います。事実、歯学部では単位制でなく時間制を採用しており、平成７年度の学生便覧には解剖学Ⅰ・Ⅱそれぞれ 208時間、生理学184時間、等と時間数で提示されています（平成７年度学生便覧、11頁、専門科目授業時間数配当表）。しかし、平成３年に改訂された大学設置基準第32条には「医学又は歯学に関する学科に係わる卒業の要件は、大学に6年以上在学し、188単位以上を修得することとする。ただし、教育上必要と認められる場合には、大学は修得すべき単位の一部の修得について、これに相当する授業時間の履修をもって代えることができる。」と規定されています。すなわち、時間制も認めるが単位制を基本とすることが明記されているのです。
　そもそも単位制と時間制にどんな違いがあるのでしょうか。教養科目の履修ガイドを思い出して下さい、教養科目の最低修得単位数に示された授業科目には具体的な科目名は物理・化学・生物以外にはありません。”人文科目群”、”社会科目群”といった科目群で提示され、それぞれに必要な単位数が示されています。従って学生諸君は履修ガイドに従って選択し、履修してきたわけです。このように、単位制の利点は異なる科目中から選択した科目の履修状況を比較できる点にあります。
　残念ながら、従来の歯学教育ではこの選択科目を取り入れる余地が無かったのです。これまで我が国の歯学教育はおおむね歯科大学学長会議で了承された”歯学教授要綱” に沿ってすすめられてきました。この教授要綱は昭和22年に制定されて以来、平成6年まで4度の改訂が行われ、専門科目18科目について歯学教育実践の基準を示しています。この基準を基に各大学がそれぞれの特徴を生かして教育することになっています。　新潟大学では歯学教授要綱以外に特徴ある講義として、コアカリキュラムを開講してきました。ここでは歯学における教育・研究の中心的課題（コア）である「硬組織」「先天異常」「生体工学」などについてその概要を総括するとともに、最近のトピックスをそれぞれの分野で最先端の研究を行っている非常勤講師を交えて講義を行ってきました。コアカリキュラムは、平成6年度新入生より始まった6年一貫教育に対応したカリキュラムの改正とともに廃止し、新たに従来の科目の枠を越えた「総合講義」を開講することになっています。平成8年度には3年生に「骨代謝の基礎と歯科疾患」「顎機能特別実習」「免疫学」「口腔腫瘍学」「結晶学入門」「バイオメカニックス」「カリオロジー入門」が開講されます。これらの「総合講義」を通して、選択科目の導入を検討する予定でいます。
　再び単位制の特徴に話を戻します。単位制の基本はその互換制度にもあります。すなわち、他の大学または学部に在籍し卒業または一部の単位を修得した学生は、これらのすでに修得した単位を限度はありますが、免除されます。このように、単位制の基では卒業に必要な科目の履修が、特定の大学・学部の科目に限定されることなく、相互に認定し合うことができるのです。開かれた大学を目指す上にも単位制の導入が必要になります。
　それでは、現時点で単位制を導入すればすぐにこの２つのメリットが得られるのでしょうか。残念ながら、現行のカリキュラムには選択科目はありません。また、他大学の歯学部との間で単位の互換を認める制度もありません。強いてメリットをあげるならば、認定された単位は再び取り直す必要がない点であります。つまり、従来のように留年するとすべての科目を再履修する必要がなくなり、残した科目だけを履修して単位を取れば良いことになります。
　しかし、これは学生にとってメリットと言えるのでしょうか？　歯学教育は歯科医師の育成を目的として編成され、選択科目はありません。また、カリキュラムは学年ごとに積み重ねるように作られていますから、たとえ一科目でも履修できない科目があると実質的には学年進行できません。つまり、結果的には留年と同じ事になります。この時、履修できない科目だけを再履修して次の学年に進むと、科目によってはブランクができることになり、次の学年で履修が困難になることがあります。従来の学年制は、再度すべての科目を履修することでこのブランクを作らないための制度だったのです。　このように、学生にとってのメリットは教える側にとっては心配の種ともなります。学生の皆さん、これを学生にとってメリットと考えるのではなく、むしろ卒業が危うくなる制度であると危惧するぐらいの心構えを持って学業に臨んで下さい。

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