第32回日本歯科理工学会学術講演会が開催さる

歯学部歯科理工学講座 宮 川  修

日本歯科理工学会の学術講演会が,平成10年10月17,18日(土,日),「新潟ユニゾンプラザ」において開催された。 数日前から,季節はずれの台風が会期中に日本海を北上する気配だった。その昔,北九州市での学会が台風により会期短縮を余儀なくされたことを思いだしてやきもきさせられた。あいにくと17日夜半から翌朝にかけ新潟市付近を駆け抜けたが,その影響は少なかった。ほっとした。全国および近隣諸国の歯科理工学講座や関連臨床講座の関係者,および地元の歯科医師と技工士が多数参集して活発な討論が行われ,盛況のうちに滞りなく会を終了できた。ご支援いただいた県,市,県歯科医師会,市歯科医師会,技工士会,同窓会,歯学部,各講座に対し,この紙面をお借りして感謝の意を表します。当講座がお世話した前回は,東日本3支部合同の講演会であった。会場は1つでよかったが,全国大会は規模が大きい。口頭発表に2会場,ポスター発表会場,小会議室5をそなえる安価な施設が市内に確保できるかどうかを当初は心配した。幸いにして,「新潟ユニゾンプラザ」は我々の学会にうってつけであった。築後まもないこともあって綺麗だし,近くの「ハングプラザVIP新潟」で催した懇親会は豪華絢爛の中で新潟の銘酒をくみ交わすことができ,いずれも大好評であった。

さて,学術講演会では,特別講演が1題,学会賞受賞記念講演が1題,論文賞受賞記念講演が2題,そして一般講演150題が発表された。おりしも,ビスフェノールAなどの環境ホルモンが社会問題化し,歯科医療の現場にも少なからず影響を与えた。健康への影響については未だ不明の点が多いので今後の研究に委ねるとして,歯科用レジン材料について正確な情報の提供が必要と考えた。そこで,歯科用レジン材料の第一人者であり,一昨年に発足した「日本歯科医学会医療環境問題検討委員会ビスフェノールA情報収集部会」の委員長である鶴見大学の平澤忠教授に,これまでの経緯をふまえ,「環境ホルモンからみた歯科用レジン」と題する特別講演をお願いした。講演が終わるやいなや質問がとびだし,特別講演では異例の,質問者意見陳述が許され,会場は熱気に包まれた。また,一般講演でもビスフェノールA関連の演題が4題あり,最新の研究成果が報告されて活発な討論が行われ,この問題の重要性と関心の高さがうかがえた。この成果は本年4月に川崎市で開催される第33回日本歯科理工学会学術講演会にひきつがれる。

一般講演としては,過去最高の150題がエントリーされ,歯科臨床を支えている広い領域の材料・技術について,口頭発表2会場とポスター発表2会場に分かれて発表され,活発な討論が行われた。主なテーマは以下の通りである。

ビスフェノールA,材料と生体,インプラント材料,骨セメント,歯質接着,金属接着,セラミックス接着,コンポジットレジン,グラスアイオノ マーセメント,コンポマー,裏層材,印象材・模型材,埋没材・鋳造,貴金属合金,チタン・チタン合金,磁性材料,陶材・セラミックス,義歯床 ・床用レジン,義歯裏装材,矯正材料,CAI,CAD/CAM・計測,消毒・殺  菌・抗菌,機能水,腐食・変色

このほかに,学会にとって重要な動きがいくつかあった。ひとつは,「新しい教授要項案」が教育検討委員会から提出され議論されたことである。継続案件としてさらに議論されていくが,これは新世紀の歯科理工学の方向を示すことになろう。

また,今回はじめて,学会のインターネット利用が議論された。この講演会を契機に学会ホームページ(暫定版)が構築され,講演会の案内やプログラムが事前に(印刷物で届く1.5月前)ホームページに公開された。それは韓国の研究者が外国出張手続をするのに役だったという。この国も,外国出張するには学会発表することの証明(コピー)が必要のようである。数カ月遅れの印刷物を待っていては手続きが円滑に進まない。とても感謝された。ホームページのアクセスは学会前日までに700件を越え,今年2月末で1750件に達した。おりしも,学術情報センターは一昨年から学協会のバックナンバーを電子化して公開する「電子図書館サービス」を開始した。また,学協会の「電子出版」を支援するためのシステムを開発し,その暫定試用(テスト)がまもなく始まる。情報の電子化とインターネットを利用した公開。学協会はこれらに積極的に取組みその恩恵を享受すべきであろう。それによって学協会自身もまた少なからず影響を受ける可能性が大である。万事が急速に変化している。


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