平成11年度新潟大学歯学部同窓会・総会学術講演会抄録
「肥満の予防・治療は可能か?」
講師:新潟大学歯学部歯科薬理学講座
川島 博行 教授
肥満が病気であるか否か、厚生省の見解は今のところ否定的である。しかしながら、世界的規模で考えれば、多くの疫学調査が示すように肥満者に循環器系疾患の罹患率が高く相対的に短命であることが良く知られており、我が国でも大相撲出身者の多くが短命であることは周知の事実である。実際、肥満は個人レベルのみならず国の財政支出、とくに医療保険制度を圧迫するものであるところから、欧米諸国では肥満の病態と治療に対する研究が進んでいる。われわれが食事をとり、血中の糖やアミノ酸、脂肪酸の濃度が高まると膵臓からインスリンが分泌されグリコーゲンや蛋白質、脂肪の合成が盛んになって血中のこれらの濃度を下げるとともに脳では視床下部の満腹中枢にその情報が伝達されて食欲が抑えられる。最近、脳にこれらの指令を伝える物質は、脂肪細胞で産生されることが確認され、レプチンと命名された。重篤な肥満においては、レプチンが脂肪細胞で産生されないか、あるいは、レプチンが結合すべき視床下部の受容体が突然変異により活性を失っているのか、の二つに大別されること、そして単位脂肪細胞あたりのレプチン産生量は個体によって遺伝的に制御されており、従って、定常状態における個人の脂肪蓄積量もこれによりほぼ決定されていることが明らかになった。レプチンのメッセージが伝わるためにはさらに何段階かのステップがあって各種ホルモンや局所因子により調節されている。そのいずれかが破綻しても肥満の惹起される可能性があるが、外因性には、ストレスによる制御機構の破綻が指摘されている。さらに、力士やマラソンランナーのように、生活週間や食生活を変えることにより、意識的に制御機構をシフトすることが可能であるか否か、あるいは、加齢により制御機構に変かが生じるか否か、いわゆるダイエットは有効か否か、なども興味深い。本講演ではこの分野における最近の進歩を解説し、治療の可能性について考えてみたい。
川島博行教授略歴
昭和41年3月 東京大学薬学科卒業(薬学士)(アニリンの分子構造)
昭和41年4月
東京大学大学院薬学系研究科製薬専門課程進学
昭和43年3月 同修士家庭修了(薬学修士)(一級アミン類の分子構造)
昭和43年4月 帝人株式会社入社 生産技術研究所(石油発酵に関する研究)
昭和46年4月 同社 中央研究所研究員(多糖類生産金に関する研究)
昭和47年6月 東京大学薬学部薬品作用学教室にて研修
昭和48年6月 同社 生物医学研究所研究員(ビタミンD類縁体の生物活性に関する研究)
昭和53年2月 学位取得(薬学博士、東京大学)
昭和53年9月 同社退社
昭和53年10月 マイアミ大学医学部留学(糖代謝とカルシウム代謝の関連について)
昭和54年10月 カリフォルニア大学ロサンジェルス校(UCLA)腎臓病学科(腎尿細管におけるビタミンD代謝酵素活性の局在性とホルモンによるその調節)
昭和56年4月 同 講師(Assistant Professor IV)
昭和58年7月 同 準教授(Associate Professor)
昭和59年9月 自治医科大学医学部薬理学助教授(高血圧におけるカルシウム代謝に関する研究)
昭和62年11月
山之内製薬株式会社入社 中央研究所新薬研究所所長付部長(老化とカルシウム代謝とくに骨代謝に関する研究)
昭和63年12月 同 研究所細胞生物学担当部長(同上)
平成1年4月
同 筑波研究所細胞生物学担当部長(同上)
平成2年1月 同 第二研究所所長(理事)
平成3年1月 同 第二研究所所長
平成3年4月 東京大学非常勤講師 現在に至る
平成5年1月 山之内製薬第二分子医学研究所所長
平成7年7月 同社 (技鑑)
平成8年3月 山之内製薬株式会社を退社
平成8年4月
新潟大学歯学部歯科薬理学講座教授 現在に至る
主な著書
学会活動
所属学会
日本骨代謝学会(評議員)
日本歯科基礎医学会(評議員)
日本薬理学会(評議員)
日本薬学会
日本腎臓学会
米国骨代謝学会
米国内分泌学会