実施状況

シンポジウム内容

近年の少子化によって、大学入学定員と入学希望者数とのバランスが変化し、いわゆる大学全入時代が到来すると言われている。これに伴い、日本における大学教育が高等専門教育から高等普通教育にシフトしつつあるという見方もある。そのような環境にあって、我々歯科医学に関連する教員は、歯学部においていかに高等専門教育を提供するかを考えなければいけないばかりではなく、その後に続く大学院教育をいかに充実させるかを考えなければならない。歯学の専門家や指導者を育成するという大学の使命に鑑み、これらは早急に対応すべき重要課題である。本学大学院医歯学総合研究科歯科系では従来大学院の実質化に取り組んでおり、平成20年には大学院教育改革支援プログラム(大学院GP)に「プロジェクト所属による大学院教育の実質化」として採択された。これによって更なる大学院教育の充実化が図られてきたところである。

本シンポジウムでは、日本に比較して早くから実質的な大学院教育をしてきたアメリカとイギリスからそれぞれ1名の講師を招聘し、また、国内でも先進的な取り組みが大学院GPに採択された岡山大学大学院より1名の講師を招聘した。今回の目的は、これら先進的な取り組みの概要を学ぶと共に、本学の取り組みに対する率直な意見を聞き、討論するための機会を作ることであった。

シンポジウムは本学大学院医歯学総合研究科魚島教授の司会により進められた。まず、魚島教授より、開会の挨拶および本学の大学院GP支援による取り組みの概要と本シンポジウムの目的に関する説明があった。その後、各講演者にそれぞれの大学院教育に関するご紹介をいただき、最後に齋藤功教授と魚島教授をコーディネーターとして、参加者を交えた討論を行った。ロンドン大学キングスカレッジの大峡 淳講師には「イギリスにおける大学院システム」と題してイギリスの大学院教育の概要を、ノースカロライナ大学歯学部の山内三男教授には「ノースカロライナ大学歯学部における大学院教育システムについて」のご講演を、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授の窪木拓男教授には「岡山大学の医療系大学院高度臨床専門医養成コースの試みー魅力ある大学院を創生するためにー」として岡山大学における取り組みをご紹介いただいた。最後に本学大学院医歯学総合研究科の齋藤功教授が「プロジェクト所属による大学院教育の実質化の実践と展望」について講演した。それぞれの具体的な講演内容については別項をご参照いただきたい。

新潟大学 魚島勝美先生による概要説明

講演の様子

左からキングスカレッジ 大峡淳先生、ノースカロライナ大学 山内三男先生、
岡山大学 窪木拓男先生、新潟大学 齋藤功先生

その後のパネルディスカッションでは、コーディネーターの齋藤教授と魚島教授の司会により、出席者を交えた討論が行われた。そこで語られた問題点として、まず基礎研究を行う大学院学生の定員がアメリカやイギリスでは少ないのに対し、本邦ではその数が非常に多いことであった。多数の学生に対して有効な教育をするためには、共通科目の開講が有効であるとさえ、その点で本学の取り組みにあるコースワークの明確な設定は評価に値するとのコメントが得られた。さらに、岡山大学では臨床技能や知識を備えた、優れた臨床家を養成するという観点からの大学院教育に関する提案がなされたが、基礎研究と臨床訓練を両立させることの難しさについての議論がなされた。アメリカやイギリスにおける臨床基礎並行プログラムでは、実際にそのハードスケジュール故に達成者が非常に限られること、本邦における現状の大学院プログラムは現実的にこれらを並行して行っていることから、今後は日英米の優れた点を学びあって、より良く、無理の無いプログラムを考えていくことの重要性が語られた。学外の講演者の先生方からは、本学の取り組みに対する一定の評価が得られ、また貴重なご提案をいただくことができた。

パネルディスカッションの様子

シンポジウム終了後の参加者アンケートの結果、84%が大変良いシンポジウムであった、または良いシンポジウムであったと回答し、内容については80%の参加者が分かりやすかったと回答した。参加者は多くが本学教員および大学院学生であったが、このことは、本学における大学院教育改革が教員や学生に広く認知され、現状に対する問題意識が共有されていることを示していると思われる。

自由記載のうち、大学院学生からのものとして代表的な意見は以下であった。本シンポジウムが大学院学生にとっても、そのあり方を考える良い機会となったと考えられる。

  • 臨床と基礎を両立していくプログラムは、どこの国でも難しいということが分かった。プログラムを考える際に臨床のスキルと基礎のスキル両方が中途半端にならないようにする難しさは十分分かった。
  • 現在の大学院教育の問題点の指摘とその解決策の一つのsuggestionは非常に参考となった。

一方、参加教員の記載では、海外のシステムが良く分かり、今後の参考となったという意見が大半を占め、本学の大学院教育改革を推進するためには、国内のみならず、海外の先進的な取り組みに関する情報の共有が重要であることが示唆された。

以上のご意見を踏まえ、今後も広く国内外から情報を集め、それらを多くの教員が共有して本学の大学院教育改善に取り組むこと、大学院学生にとって重要な臨床教育をより明確なプログラムを提示して遂行することなどを念頭に、一層の改善を図っていく予定である。魅力的なプログラム提示によって臨床研修の必修化による大学院学生の減少に歯止めをかけ、より魅力的な大学院構築を進めるつもりである。今後も、多くの方々のご協力をお願いしたい。