平成13年度 新潟歯学会 第1回例会

日時 平成13年7月14日(土)  13時より
場所 新潟大学歯学部5階 第3講義室

プログラム

一般講演---13:00-14:50
特別講演---15:00-16:00


    座長 江尻貞一・宮岡洋三

1. 13:00 卵巣摘出ラットにおけるビタミンK2(MK-4)投与時の
組織学的検討
○浅輪幸世, 江尻貞一
新潟大学大学院医歯学総合研究科硬組織形態学分野

2. 13:10 頭頸部可動域の動的測定
        
○宮岡里見1,2, 平野秀利2, 宮岡洋三3, 山田好秋2
新潟市桑名病院リハビリテーション部
新潟大学大学院医歯学総合研究科顎顔面機能学分野2
新潟医療福祉大学医療技術学部健康栄養学科3

3. 13:20 反対咬合タッピング時の歯根膜顎反射の反応様式について
○ 鈴木総郎, 高木正道, 田口 洋, 野田 忠
新潟大学大学院医歯学総合研究科小児口腔科学分野

座長 小野和宏・鈴木政弘

4. 13:30 日本人口唇・口蓋裂患者におけるマイクロサテライト多型を用いた連鎖解析
○藤田 一,永田昌毅,小野和宏, 高木律男
新潟大学大学院医歯学総合研究科顎顔面口腔外科学分野

5. 13:40 両側性顎口蓋裂児に対するHotz床併用二段階口蓋手術法の顎発育に関する検討

○早津 誠, 小野和宏, 飯田明彦, 永田正毅, 今井信行,
高木律男, 大橋 靖1, 花田晃治2, 森田修一2, 石井一裕2,シルベラ アルチビアデス2 
新潟大学大学院医歯学総合研究科顎顔面口腔外科分野
新潟大学名誉教授1
新潟大学大学院医歯学総合研究科咬合制御学分野2

6. 13:50 新潟大学歯学部附属病院口蓋裂診療班登録患者の動向によるチームアプローチの評価について
        
○朝日藤寿一, 寺田員人, 八木 稔, 小林正治, 小野和宏, 飯田明彦, 野村章子, 佐藤孝弘, 吉羽永子, 田井秀明,石井一裕, 田口 洋, 小林富貴子, 瀬尾憲司, 寺尾恵美子,高木律男1, 花田晃治2

新潟大学口蓋裂診療班
新潟大学大学院医歯学総合研究科顎顔面口腔外科分野1
新潟大学大学院医歯学総合研究科咬合制御学分野2

7. 14:00 特別養護老人ホームでのビデオ内視鏡を用いた摂食機能評価

○小森祐子, 杉田佳織, 中村嘉亨,浅妻真澄,加藤直子,渡邊一也, 田澤貴弘, 紋谷光徳,豊里 晃,植田耕一郎,野村修一1
新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食・嚥下障害学分野
新潟大学大学院医歯学総合研究科加齢・高齢者歯科学分野1

座長 新垣 晋・佐々井敬祐 

8. 14:10 側頭下窩に生じた類表皮嚢胞の1例

◯加藤幸生, 新垣 晋, 小林正治, 高田真仁, 泉 直也,新美奏恵
新潟大学大学院医歯学総合研究科組織再建口腔外科学分野

9. 14:20 伊勢崎市民病院歯科口腔外科における過去10年間の口腔癌再発症例の臨床的検討
○佐々井敬祐, 小田陽平, 新垣 晋1
伊勢崎市民病院歯科口腔外科
新潟大学大学院医歯学総合研究科組織再建口腔外科分野1

10. 14:30 早期の機能回復,退院を考慮に入れた顎骨骨折症例の治療経験
○小田陽平, 佐々井敬祐, 新垣 晋1
伊勢崎市民病院歯科口腔外科
新潟大学大学院医歯学総合研究科組織再建口腔外科学分野1

11. 14:40 治療に苦慮した呼吸障害を伴った下顎骨骨折の1例
○笠井直栄, 武藤祐一
新潟労災病院歯科口腔外科


休憩------------ 14:50-15:00
教授就任講演-----15:00-16:00

座長 河野正司 副会頭
演題   器官形成におけるホメオボックス遺伝子Msx1, Msx2の機能

講師   新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食環境制御学講座
分化再生制御学分野   
里方一郎 教授

先天奇形の分子機構解明を目的として,ノックアウトマウスによるホメオボックス遺伝子Msx の機能解析を行なった。Msx は,マウスではMsx1,Msx2,Msx3 が,ヒトではMSX1, MSX2 が存在する。Msx3 は神経管背側に発現が限局するが,Msx1, Msx2 は神経板,神経管背側および神経堤に,その後,顎顔面,眼,耳,歯,心大血管,肢芽,後腎,生殖結節などの組織に重複して発現し,これらの器官形成に重要な役割を担うと予想されていた。
 Msx1ノックアウトマウスでは,2次口蓋裂,下顎の低形成,歯の蕾状期での発生停止,つち骨短突起の欠損,前頭骨の低形成など,神経堤細胞由来の組織に異常が認められた。歯の発生停止の分子機構を調べた。歯上皮からBMP2,4が周囲の間葉に分泌され,歯間葉におけるMsx1の発現を誘導することは知られていたが,私たちは,Msx1ノックアウトマウスの歯間葉ではBmp4 の発現がほとんど認められないことを見い出し,歯の発生には歯上皮BMP4→歯間葉Msx1→歯間葉BMP4というシグナル経路が存在し,この経路が阻害されると歯の蕾状期での発生停止が生じることを明らかにした。
 Msx2ノックアウトマウスでは,小脳,歯,骨軟骨,毛髪,乳腺の形成に異常が認められた。すなわち,小脳の低形成,小脳顆粒細胞の垂直移動障害,プルキンエ細胞層の形成異常が認められ,数分間の全身痙攣が観察された。Msx2 はプルキンエ細胞のみに発現することより,プルキンエ細胞の異常が他の小脳の形成異常を惹起したものと考えられた。骨形成は,膜性骨化,内軟骨骨化の両方に障害が認められ,軟骨の形成障害も認められた。骨芽細胞あるいは軟骨細胞の分化に働く重要な因子とされるCbfa1, osteocalcin, PTH / PTHrP receptorなどの発現は,Msx2ノックアウトマウスの骨軟骨組織では低下していたことより,Msx2 は骨芽細胞,軟骨細胞の分化に重要な機能を担うことが考えられた。歯の異常は,エナメル器の分化異常によるエナメル形成不全で,1次エナメル結節でのアポトーシスの障害が原因と考えられた。
 Msx1,Msx2 ダブルノックアウトマウスは胎生致死で,大部分は胎生14.5日頃までに心不全のために死亡した。神経管閉鎖不全による外脳症(無脳症の前状態),眼および耳の形成不全,両側性唇・口蓋裂,歯の蕾状期での発生停止,副甲状腺の欠損および胸腺の低形成,胸腹壁欠損,心大血管奇形,四肢奇形,骨軟骨形成不全,毛嚢,乳腺,外性器の形成不全などきわめて多くの器官の発生異常が認められた。以上の結果より,Msx1,Msx2 は,脳,頭蓋・顎顔面,歯,心臓,四肢など多くの器官の形成に重要な役割を担い,互いの機能を代償し得ることを明らかにした。さらに,神経管の閉鎖,心ループの形成,四肢,外性器の形成には,歯の形成で明らかにされたシグナル経路BMP4→Msx1, Msx2 →BMP4が共通に用いられていることが考えられ,異なる器官の形成に共通のシグナル経路が機能していることが示唆された。
 本講演では,唇・口蓋裂の分子機構および骨芽細胞,軟骨細胞の分化機構の解明,歯の再生法の開発など,今後の研究計画についても紹介したい。