|在宅療養でのの問題点|口腔ケアの現状おいしく安全に食べるために介護認定審査会の現状

 

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1.口腔の問題を把握すること

 多くのケアマネージャーにとって口腔の問題は、他の身体問題に比べると、関心が低いといえる。「とりあえず今は問題のなさそうな」口腔より、オムツを1回でも多く換えることに関心がある場合が多い。実際、食事が摂れないなど、問題が発生してから初めて口腔の現状や問題を把握するということは少なくない。しかし一方でいざ問題が起こったときに、どう対処して良いのか困るのも口腔ケアである。
 まず、口の中をどう見てよいか、わからない。それが問題なのかどうか、わからない。どこに相談してよいか、わからない。
 問題が起こってから慌てるのではなく、せめて問題を予測できたり、問題に早めに対処できることを望みたい。そのためには、(1)在宅介護の従事者が口腔ケアについて初歩的な知識と関心を持つこと、そして(2)口腔に関して気軽に相談できる窓口が整備されることが、必要だと思われる。

(1)口腔ケアについて初歩的な知識と関心を持つこと
 たとえば「歯磨き」を例にとってみると、ケアマネージャーや介護スタッフに、正しい方法がきちんと知られてるとはいえない。
 バス法では、歯ブラシは「小さく動かす」と言葉ではわかっていても、3〜4本一緒に磨くくらいの幅だったり、横磨きとの区別がついていない人もいる。
 力の入れすぎも問題である。介助している方はそれほど力を入れている自覚はないが、磨かれている方は案外痛いので、歯磨きを嫌がる原因になる。介護スタッフは養成課程で口腔ケアについては言葉で習うのがせいぜいで、実際にやってみたことのない人がほとんどなのである。先に口腔ケアの実習研修会が行われた際、歯科衛生士に手を取って教えてもらったり、自分の歯を磨いてもらったりと、実際に体験してみると、ずいぶん反省する点があったようだ。
 知識が得られると、関心がでてくる。自分たちでできる部分があると判ると、工夫しようという意欲が出てくる。歯を食いしばる人には、反対の歯に何か噛ませてそのすきまから磨くことを教わったので、さっそく実践してみたが、相手の方がうわてで、噛ませたものはカミカミ咀嚼してぺっと出されてしまったなど、試行錯誤ではある。しかし、考えたり問題を認識できることが大切な第一歩となる。
 長期入院から退院してきたAさんは、脳梗塞の後遺症で、言葉が話せず、嚥下障害もあるとのことで、家族は食事指導を受けて退院してきた。Aさんの歯磨きは口をキッと閉じてしまうので、訪問介護者にとってはなかなか大変な仕事だったが工夫しながら続けるうちに、Aさんは次第に「これは歯磨きだ」とわかってきたのか、口を食いしばらなくなった。そしてようやく口の中を見ることができたのだが、その時喉の奥に何かできものがあるのが見え、咽頭の腫瘍という新しい問題が発見されたという例もある。

(2)口腔に関して気軽に相談できる窓口が整備されること
 たとえば上顎の軟口蓋が挙上してへこんでいるために食物や痰がくっついてしまうとか、舌がねじれているために部分的に黒っぽい汚れ(舌苔)が目立ってきたとか、齲蝕はあるが本人は痛くない、義歯がなんとなくしっくりしないなど、治療の領分かどうか、口腔ケアが必要かどうか判断がつかず迷うこともある。それをどこに相談すれば良いのか、また迷う。気軽に相談できる窓口があると良いと思う。
 幸いかかりつけの歯科があった人でも、通院できない状態だということや、今の口腔の状態をどう説明したらよいか等、家族もケアマネージャーもずいぶん緊張しながら歯科へ連絡する場合が多い。この時歯科医師が気軽に往診してくれたり、歯科衛生士が一緒に相談に乗って考えてくれたり、他の専門医を紹介してくれたり、うまく繋がると、次の相談がしやすくなる。逆に、例えば本人をみないうちに「そんなのどうしようもないよ」などどいわれてしまうと、次に困った時に相談するのを躊躇してしまうだろう。解決したかどうかだけではなく、相談に応じてもらえたかどうかが、その後に影響すると考える。
 たとえばBさんの場合、入院中に義歯を紛失して、新しい義歯を作ったが、気に入らない。退院数週間後、食事をしている時に義歯がカタカタと音がするのに気づいた。歯科の治療を勧めると、本人はかかりつけのC歯科医院がいいという。家族は通えないのを心配したが、歯科の往診の制度もあるので、まずはC歯科医院に電話をしてみる事になった。「治療中に誤嚥を起すといけないから、まずは本人を連れて医院に来てほしい」と言われたので、当日は孫がおんぶして、連れて行った。後日、嫁が「H先生は「これなら今度から往診でしてあげる」と言った。きっとどんな呆け婆さが来るかと思ったんだろうねえ」と笑って言った。歯科医師は治療の程度が往診でできる程度だという意味で言ったのもしれないが、嫁は「往診でしてあげる」という歯科医師の言葉が相当嬉しかったらしい。数回往診してもらって、本人の納得のいく義歯ができ、本人も家族も喜んでいる。
 一方で、口腔ケアが導入された後、歯科衛生士から訪問介護者やケアマネージャーに状況や手技を伝えたいが、どこに連絡していいのかわからない場合もあるようだ。実は同じ時期に訪問介護者の方でも歯科衛生士に教えて欲しいと思っていても、躊躇していることもあるので、サービス導入時に連絡方法や担当者を確認しておく事が必要だろう。これに関しては、サービス担当者会議が活用できる。

 
 

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