昨年に引き続き北関東甲信越ブロックにおけるHIV 感染者に対する歯科医療体制整備のための情報交換会及び講演会を開催いたします。前回は、各県からの代表者と新潟県・新潟市歯科医師会会員、新潟大学関係者、研修歯科医、歯学部学生を含めて32名の方が参加してくださり、意見交換を行うことができました。今年は、少し大きな会 場を利用して、講演会を中心に歯科治療現場での問題点を少しでも解決してもらえるよう、HIV 感染者に対する歯科医療体制整備の中心となって活躍されている宇佐美先生、患者さんの多い東京地 区で実際に患者さんの診療にあたっておられる贄川先生、中川歯科衛生士にそれぞれの立場からお話しをしていただく予定です。今後の歯科医療にあたり非常に参考になるお話しがうかがえると思 いますし、情報交換の場所としてご活用いただければ幸いです。
2016年10月16日(日)
HIV感染者に対する歯科医療情報交換会
北関東甲信越ブロック
開催概要
期日 | 2016年10月16日(日) 9:30~15:30 |
---|---|
場所 | アートホテル新潟駅前(10月1日より変更予定)4階「湯沢」 (新潟駅南口直結、現・ホテル ラングウッド新潟) |
主催 | 新潟大学 |
後援 | 新潟県 |
情報交換会への参加予定者 | 茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・山梨県・長野県・新潟県(順不同)の行政担当者、歯科医師会担当者、拠点病院歯科担当者 |
事前アンケート調査 | 平成27年度事業実施内容および平成28年度事業予定に関するアンケート集計表(PDF)を開示いたします。 |
当日の日程
09:30 | 開場・受付開始 |
---|---|
10:00 | 講演1 「医療体制整備に関する研究班班長の立場から」 宇佐美先生 |
11:00 | 講演2 「開業歯科医師の立場から」 贄川先生 |
12:00 | ランチョンセミナー&昼食 |
13:00 | 講演3 「歯科衛生士の立場から」 中川先生 |
14:00 | 情報交換会:各県の参加者による意見交換 |
15:30 | 閉会 |
講演のご案内
講演1:「HIV感染者の歯科診療ガイドブック」を発行して
今から約30年以上前の1982年、CDC(米国疾病予防管理センター)が謎の致死的疾患をAIDS(後天性免疫不全症候群)と命名しました。すでに翌年には原因病原体であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が発見され、感染経路も明らかになっていました。基本的な感染対策のみで歯科治療時には感染しないことも報告されています。とは言え、当時はHIVに感染しAIDS を発症すると、ほぼ数年で死に至るため、社会全体に誤解や偏見が蔓延していたようです。しかし、90年代後半に登場したHAART( 多剤併用抗レトロウイルス療法) により、ウイルスの増殖は完全に抑制できるようになりました(HIV感染症の治療は、近年、最も進歩した医療分野といえるでしょう)。今やHIV感染症は単なる慢性疾患です。
HIV感染症の予後改善は自ずとHIV感染者の歯科治療のニーズが増えることを意味しています。しかしながら、疾患に対する誤解、偏見は根深く、あるいは無知からか、HIV感染者の歯科医療環境は今でも不十分です。今まで歯科医療従事者にとってHIV感染症の情報が不十分だったかもしれません。そこで歯科の医療体制整備に関する研究班では「HIV感染者の歯科診療ハンドブック」を作成し全国に配布しました。本ガイドブックにより歯科医療従事者も、真の医療従事者としてHIV感染症を理解し、HIV感染者の診療に臨んでいただけることを期待しています。
演者のご紹介
宇佐美 雄司(うさみ ゆうじ)先生
- 厚生労働行政推進調査事業費補助金エイズ対策政策研究事業「HIV 感染症の医療体制の整備に関する研究」
- 「歯科の医療体制整備に関する研究」分担研究者
ご略歴
1983年3月 | 大阪大学歯学部卒業 |
---|---|
1983年4月 | 名古屋大学医学部口腔外科学講座入局 |
1996年4月 | 名古屋大学医学部附属病院 講師(歯科口腔外科) |
1996年10月 | 刈谷総合病院(現刈谷豊田総合病院)歯科口腔外科部長 |
2010年4月 | 名古屋医療センター歯科口腔外科医長 現在に至る |
資格等
医学博士(名古屋大学)/日本口腔外科学会専門医・指導医/日本有病者歯科医療学会専門医・指導医/平成26 年よりHIV感染症の医療体制の整備に関する研究 分担研究者

講演2:かかりつけ歯科医としてHIV感染者を診る
演者の診療所ではこれまで肝炎ウィルスやHIVなどの感染者も拒むことなく受け入れてきたが、歯科診療所で感染症患者を受け入れるには診療スタッフの理解と協力が不可欠である。一般に歯科診療スタッフが感染症患者をこわく感じ診療拒否をしたりするのは感染症に対する知識不足のよるものであり、基本的知識をきちんと理解していればこわく感じることはなくなり、感染対策もHIV感染症であればスタンダードプレコーション(標準予防策) で十分対応可能ということが理解されるものと考えている。
そこで、今回はHIV感染症についてのスタッフ教育をどうしたら良いか、演者が日頃、診療所で行っている内容を紹介したい。
また、実際に受診されている感染者の統計データをお示しし、HIV感染症の治療が進歩した現状では、歯科診療を行う上での医学的問題は少ないことを説明したい。
HIV感染者の歯科治療に20年近く関わってきて感じていることは、病院歯科機能よりもかかりつけ歯科医機能の方が求められている、ということである。診療内容のほとんどがウ蝕、歯周病といった一般的な歯科疾患であり、患者層は就業中で通院時間に制約のある世代が多く、継続的な管理を必要とすることもある。プライバシーが守られるのであれば、より身近な歯科診療所での対応が求められているように感じている。
演者のご紹介
贄川 勝吉(にえかわ かつよし)先生
- 東京都新宿区開業
- 東京都歯科医師会理事
- 日本歯科医師会学術委員会委員
ご略歴
1981年3月 | 東京医科歯科大学歯学部卒業 |
---|---|
1986年3月 | 東京医科歯科大学大学院博士課程修了 |
1987年5月 | 新宿区の社会保険中央総合病院(現在・東京山手メディカルセンター) 歯科に勤務(1990 年より歯科部長) |
1998年10月 | にえかわ歯科医院(現在地)開業 |
2001年4月 | 新宿区歯科医師会理事(4年) |
2005年4月 | 新宿区歯科医師会副会長(4年) |
2009年4月 | 新宿区歯科医師会会長(2年) |
2013年4月 | 東京都歯科医師会理事、日本歯科医師会学術委員会委員 |
著書
- お口の健康ガイドブック(厚生出版社)
- 歯の健康ガイドブック(サンライフ企画)
- 在宅歯科診療 実践マニュアル(厚有出版 2008年)
- 訪問診療に今日から使える 実践・ベッドサイドマニュアル(QDT Vol.39 1~12連載 2014年)

講演3:エイズ治療・研究開発センターにおける歯科受診支援
エイズ治療・研究開発センター(以下、ACC:AIDS Clinical Center)は、薬害エイズ訴訟の和解をふまえ、被害者救済の一環として1997年4月1日(旧)国立国際医療センターに開設された。累計患者数は2015年末までで4,012名(血友病患者:82名)となり、専門外来の一日平均の患者数は54.5人である。ACCは設立当初から歯科衛生士が1名在籍しており、歯科診療所への受診紹介や院内歯科・口腔外科との治療の調整など歯科に関わる相談を行っている。東京都には歯科医師会を調整機関とする東京都エイズ協力歯科診療所の紹介システムがあり、一般的な歯科治療であれば協力歯科診療所を紹介し、口腔外科の診察が必要であれば院内歯科・口腔外科を紹介しており、2015年末までに院外歯科診療施設に紹介した患者は1,391名、院内歯科・口腔外科を受診した患者は1,291名となっている。ACC開設当時は院内歯科・口腔外科のみでの受診であった。現在では利便性のある歯科診療所への紹介数は年々増加しているが、未だ受け入れ機関は少なく登録歯科診療所の数も伸び悩んでいるのか現状である。
また、歯科医療体制整備に関する研究班において、東京都エイズ協力歯科診療所に勤務する歯科衛生士を対象に行ったアンケート結果も報告したい。
演者のご紹介
中川 裕美子(なかがわ ゆみこ)歯科衛生士
- 一般社団法人日本口腔感染症学会 院内感染予防対策認定歯科衛生士
- 一般社団法人日本口腔感染症学会 院内感染予防対策認認定制度委員会委員
ご略歴
1985年3月 | 日本歯科大学附属専門学校歯科衛生士科卒業 開業医勤務を経て、 |
---|---|
2006年4月 | 公益財団法人エイズ予防財団リサーチ・レジデント 国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター出向 |
2015年4月 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター特任研究員 |
2016年4月 | 学校法人東京滋慶学園新東京歯科衛生士学校歯科衛生学部教員 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター客員研究員 |
資格等
2009年:一般社団法人日本口腔感染症学会 院内感染予防対策認定歯科衛生士/2011年:一般社団法人日本口腔感染症学会 院内感染予防対策認認定制度委員会委員

お問い合わせ
新潟大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面口腔外科学分野 髙木律男
e-mail : takagi@dent.niigata-u.ac.jp