HIV感染症について

ご挨拶

HIV/AIDS患者さんの歯科診療に特別なことは必要ありません。そのため、体制整備(ネットワーク構築)は本来は不要で、通常の病診連携で十分なはずです。

しかし、理想論とは裏腹に、歯科医師はHIV/AIDS患者さんの受け入れに不安をもっており、患者さんも歯科医院受診の際にHIV/AIDS感染を申告しないで治療を受けたい現状があるようです。

このホームページは、いつまでもこうした状況であることが、歯科医師にも患者さんにもマイナスであることに気付いてほしいとの気持ちから作製しました。

HIV/AIDSの基礎知識

本院のHIV/AIDS患者さんの受診状況と治療内容

新大病院歯科における処置内容 新大病院歯科のべ受診患者数
観血処置 162(11%)
非観血処置 1,337(89%)

HIVに関する基礎知識

表に示す24のAIDS関連疾患がAIDS発症の指標になります。口腔カンジダ、不明熱、帯状疱疹、ヘルペス性口唇炎、口腔内の発疹や潰瘍には注意が必要です。

A.真菌症
  1. カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)
  2. クリプトコッカス症(肺以外)
  3. コクシジオイデス症 ※1)
  4. ヒストプラズマ症 ※1)
B.原虫感染症
  1. ニューモシスチス肺炎 (注)原虫という説もある
  2. トキソプラズマ脳症(生後1ヵ月以後)
  3. クリプトスポリジウム症(1ヵ月以上続く下痢を伴ったもの)
  4. イソスボラ症(1ヵ月以上続く下痢を伴ったもの)
C.細菌感染症
  1. 化膿性細菌感染症 ※2)
  2. サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
  3. 活動性結核(肺結核又は肺外結核) ※1)※3)
  4. 非結核性抗酸菌症 ※1)
D.ウイルス感染症
  1. サイトメガロウイルス感染症(生後1ヵ月以後で、肝、脾、リンパ節以外)
  2. 単純ヘルペスウイルス感染症 ※4)
  3. 進行性多巣性白質脳症
E.腫瘍
  1. カポジ肉腫
  2. 原発性脳リンパ腫
  3. 非ホジキンリンパ腫
    a)大細胞型・免疫芽球型 b)Burkitt型
  4. 浸潤性子宮頸癌 ※3)
F.その他
  1. 反復性肺炎
  2. リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:
  3. LIP/PLH complex(13歳未満)
  4. HIV脳症(痴呆又は亜急性脳炎)
  5. HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)
  • a)全身に播種したもの b)肺、頸部、肺門リンパ筋以外の部位に起こったもの
  • 13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により、以下のいずれかが2年以内に、2つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの
    a)敗血症 b)肺炎 c)髄膜炎 d)骨関節炎 e)中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の腫瘍
  • C11活動性結核のうち肺結核及びE19浸潤性子宮頸癌については、HIVによる免疫不全を示唆する症状または所見がみられる場合に限る
  • a)1ヵ月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの
    b)生後1ヵ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの

治療について

歯科医師に気付いて欲しいこと

①感染力 HIV感染症の感染力は、B型肝炎やC型肝炎に比べて非常に弱く、歯科診療から感染した事例はありません。また、お願いする患者さんは、治療によりウイルス量が少なくコントロールされている方(検出限界以下)です。
②スタンダードプレコーション 申告できない患者さん、感染に気付いていない患者さんが受診している可能性があります。そのためにも、標準予防策(スタンダードプレコーション)が大切になります。
③異常所見の精査依頼 口腔内に異常所見があった場合には、HIV感染症に関連した症状の可能性もあり、対応に困るはずです。異常所見に気付いたら早目に大学病院などへ紹介し、初期対応を依頼してください。病診連携(大学病院への紹介)は応召義務違反(診療拒否)ではありません
④情報交換 ネットワークを活用することにより、患者さんの最新の情報(全身状態、内服状況、注意点、等)を共有することが可能となります。:本来の目的です

歯科医療ネットワークへの参加は、決して強制ではありません。最終的には医院の開設責任者である院長先生の考え方に依ります。ネットワークの必要性、重要性、そして情報のないことの危険性、等を十分に理解した上で、受入れを決めるのは院長先生です。

HIV/AIDS患者さんに気付いて欲しいこと

①病状照会 歯科医師を信頼してHIV感染を申告し、内科主治医と情報交換してもらうことで、安全で安心な歯科治療を受けることができます
②利便性 口腔内管理を近所の歯科医院で行ってもらうことで、頻回の通院が可能となり、経時的な口腔内評価を行うこともできます。(かかりつけ歯科医)
③専門性 HIV感染症により唾液分泌が低下するため、う蝕や歯周病に罹患しやすい口腔環境にあります。かかりつけ歯科医により、う蝕や歯周病の予防、口腔内所見から病状の進行(カンジダ症等)の評価、PMTC*等の専門的なメインテナンスを実践できます
*PMTC : Professional Mechanical Tooth Cleaning

ネットワークはHIV/AIDS患者さんが安心して歯科治療を受けられるのみではなく、歯科医師にとっても多くのメリットがあります。

歯科治療ネットワーク

針刺し・刺傷事故時の対応(新潟県)

予防内服にあたり確認すべき状況

暴露源の状態:要注意
  • AIDS発症者*
  • 血中HIV-RNA量1500コピー以上*
暴露の状況
軽傷 非中空針、非採血針(歯科局麻針での刺傷等)
重症* 太い中空針(輸血・採血後)
肉眼で血液の付着確認可
血管に刺した針
深い針刺し
  • 予防内服を行うか決断(本人)
    *1回目を刺傷事故後2時間以内(できるだけ早く)に内服が推奨されています。
  • 内服薬はこちらの病院にあります。

平成22年9月9日付け基発0909第1号厚生労働省労働基準局長通達「労災保険におけるHIV感染症の取扱いについて」により、抗HIV薬の投与について、針刺し事故等の受傷後からの一連の処置として、労災保険の保険給付として認められることになっています。

新潟県内予防内服薬配置病院分布図

新潟県25病院(拠点病院7、その他の救急指定病院18)に各2日分の薬剤を配置

新潟県の拠点病院
拠点病院以外の救急指定病院