2017年8月27日(日)

HIV感染者に対する歯科医療情報交換会

北関東甲信越ブロック

開催概要

ご存知の通りHIV感染については、新規感染者の年間増加数はある程度一定の数になりつつあるとのデータもありますが、依然として年間に1,400人前後の新規感染者が判明(特に若年者)しており、慢性疾患になったとはいえ、完全にHIVが除去できないことから、これからも歯科治療の必要な患者さんが増加することは間違いありません。しかし、残念ながら現状でも風評被害やプライバシーの問題などから、十分な受け入れ体制が整っているとは言えません。

新潟県は新潟大学医歯学総合病院が北関東甲信越ブロックのブロック拠点病院であることから、北関東甲信越地区の各歯科医師会、行政関係、および中核または拠点病院との連携などについて現状を把握し、今後の方向性を検討することを目的に、別紙の如く情報交換会を計画いたしました。ご多忙中、しかも休日での開催になりますが、参加料は無料で、ランチョンセミナーとして昼食も出させていただきます。奮ってご参加いただけますようご案内申し上げます。

2017年6月22日
新潟大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面口腔外科
髙木 律男 拝
e-mail : takagi@dent.niigata-u.ac.jp
(後援:新潟県、新潟大学医歯学総合病院)

期日 2017年8月27日(日) 9:30~15:30
場所 新潟医療人育成センター2階 セミナー室
新潟市中央区旭町通一番町757 番地(新潟大学旭町キャンパス内)
新潟大学医歯学総合病院 駐車場使用可能
TEL. 025-227-2035
http://www.nuh.niigata-u.ac.jp/nmp/
主催 新潟大学
後援 新潟県、新潟大学医歯学総合病院
情報交換会への参加予定者 茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・山梨県・長野県・新潟県(順不同)の行政担当者、歯科医師会担当者、拠点病院歯科担当者
事前アンケート調査 平成28年度事業実施内容および2017年度事業予定に関するアンケート集計表(PDF)を開示いたします。

当日の日程

09:30 開場・受付開始
10:00 講演1
「北関東甲信越地区の血友病患者さんの現状」
新潟県立新発田病院 内科 田邊嘉也先生
11:00 講演2
「血友病とHIV の歴史展開.-そこから学ぶ今後の課題-」
国立病院機構 大阪医療センター 内科 西田恭治先生
12:00 ランチョンセミナー&昼食
13:00 講演3
「薬害エイズ発生とその後の歴史的背景」
日本HIV歯科医療研究会前理事長 前田憲昭先生
14:00 情報交換会、意見交換会(各県の状況報告など)
15:30 終了予定

講演のご案内

講演1:北関東甲信越地区の血友病患者さんの現状

関東甲信越ブロックのHIV担当の責任者を2007年から続けさせて頂いてきた。それ以前からHIVの診療担当ではあったが、医療体制整備という仕事をさせて頂く中で振り返ってみると当初は安全なHIV療法の確立とその普及が主たる議題であった。その後は抗HIV薬による長期的副作用の軽減、QOLの改善、ならびに患者の高齢化対策としての療養環境の整備など時期により重点課題が変遷してきている。そして合併するC型肝炎対策については肝移植から直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals;DAA) の普及とこちらも大きく変化した。

現在、関東甲信越地区にはもっとも多くのHIV合併血友病患者が暮らしており大多数は地元の医療機関とエイズ治療研究開発センターと連携をとりながら診療をおこなっている。これで十分という医療体制が構築できているわけではないが、一つ一つの課題を当事者と対話を行いながら解決すべく対応をすすめている現状がある。今回は関東甲信越ブロックの中でも北関東甲信越地区5県の現状について紹介し、これまでのHIV医療の変遷とこれからについて参加者の方と情報共有をはかりたい。

演者のご紹介

田邊 嘉也(たなべ よしなり)先生
  • 新潟大学 准教授
  • 新潟大学医歯学総合病院 感染管理部病院教授
  • 新潟県立新発田病院 内科
ご略歴
学歴
1992年 新潟大学医学部医学科 卒業
1999年 新潟大学大学院医学研究科 卒業
勤務歴
1992年4月 新潟大学医歯学総合病院
1993年4月 山形県鶴岡市立荘内病院
上記施設にて内科初期研修
1994年 第二内科入局。 以後第二内科関連病院出張、大学院課程
2002年3月~2005年3月 カリフォルニア大学生物学教室(research fellow)
2005年4月 新潟大学医歯学総合病院 第二内科
2006年12月 新潟大学医歯学総合病院 感染管理部副部長(第二内科と兼任)
2011年4月 新潟大学准教授 感染管理部副部長(専任)
2014年6月 新潟大学医歯学総合病院 病院教授
2017年7月 新潟県立新発田病院 内科(専門分野 呼吸器内科、感染症)

講演2:血友病とHIV の歴史展開. -そこから学ぶ今後の課題-

我々は、血友病医療およびそれに降りかかったHIV感染症という事態から多くのことを学びました。しかしながら、それらのことが客観的に総括されて、将来への糧となっているかに関しては、極めて心もとなく思えます。それは、世界の先進国でも同様の惨禍にあってきたわけですが、日本は特異な歴史を歩み、あるべき総括がされてこなかったという経緯があるからです。今回、このような機会をいただき、少しでも将来の糧となるきっかけ作りになれればと思います。

話の流れは、①血友病への理解、②血友病とHIV、③今後への提唱と考えています。①では、血友病という疾患の歴史的背景から病態の復習、治療の進歩の状況を経時的に紹介します。そして、先進国においては飛躍的な進歩を見せた血友病治療の陰で、置き去りにされている途上国での血友病を取り巻く環境、そして先進国でも関心のあたってこなかった血友病保因者女性が抱える問題にまで踏み込みたいと考えています。②では、メディア主導で築かれていった日本の薬害HIVの歴史を問い直したいと思います。日本でHIVが認識され始めた1980年代初めからHIV感染症に対峙してきた演者の目から見た現実と経験より、何がどのように報道され、何を見落としてきたかを問い直したいと思います。それらは、必ずや将来の教訓となることを含んでおり、現に欧米先進国諸国では既知の事柄でもあります。③では、今後への提唱を皆さんとともに考えていきたいと思っています。

他の領域を振り返っても、日本人は過去を総括し、そこから教訓を紡ぎだすことは不得意なように思います。血友病とHIVの問題は、この領域に関わらず広く我々に示唆を与えてくれています。ご期待にそえる話が出来る自信はありませんが、皆様と一緒に考える機会をいただいたことに感謝いたします。

演者のご紹介

西田 恭治(にしだ やすはる)先生
  • 日本内科学会認定医
  • 日本血液学会認定血液専門医
  • 日本血液学会認定血液指導医
  • 日本エイズ学会認定医
ご略歴
1980年3月 神戸大学医学部卒業
1980年6月 兵庫医科大学病院第2内科学教室臨床研修医 勤務
1982年6月 兵庫医科大学病院第2内科学教室医員 勤務
東京医科大学病院臨床病理学教室へ 血液凝固研究のため国内留学
1983年4月 同上から帰任し 兵庫医科大学病院第2内科学教室医員 勤務
1985年6月 兵庫医科大学病院第2内科学教室研究生
1986年6月 兵庫医科大学病院第2内科学教室医員 勤務
1987年6月 兵庫医科大学病院第2内科学教室助手 勤務
1994年4月 東京医科大学病院臨床病理学科(現:臨床検査医学講座)勤務
1998年2月 東京医科大学病院臨床検査医学講座 講師
2008年9月 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 免疫感染症科勤務
2009年4月 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 感染症内科医長

講演3:キンバリー事件から現在へ 30年が経過して

私がエイズ予防財団から米国に派遣された1992年、ニューヨークに滞在中に、キンバリーさんの議会証言が、全米にテレビ中継されました。

ウエストサイドには、HIVの患者さんで口腔症状が特にひどい方が集まっていましたから、キンバリーさんの口腔は、どんな状態なのか、画面に食い入るように見つめたのを思い出します。NYのウエストサイドは、麻薬中毒者の巣で、多くの口腔症状は、HIVよりもむしろ、麻薬に関連した症状であったことを、後に知ることになります。

一方、米国西海岸のHIV感染者は、主として男性同性愛者で、彼らは教育レベルも高く、 健康への意識も高いから、口腔症状はもっと軽い、とNYの歯科医が説明してくれました。 しかし、この説明は、帰国して、日本の患者さんには必ずしも当てはまらないと分かります。

キンバリーさんは、「歯科医療が原因で、エイズになった」と訴えたために、「歯科医療」は、一気に悪者になりました。見たこともない感染症の出現に、魔女探し状態の米国で、たちまちやり玉に上がりました。とりわけ、タービンのハンドピースが標的になりました。(私見:私は、いまでもファイルやリーマーが最も危険と考えています)。

これらの出来事を背景に、米国CDCは2003年歯科診療環境における院内感染予防の標準対策(Standard Precautions)を発表、「唾液」を感染源の対象に加えます。

そして、14年以上が経過した今、タービン・ハンドピースを患者さんごとに交換できる歯科医院は、どれくらいになったでしょうか?

HIV 感染症は、冬のインフルエンザのように、通り過ぎるまで、なんとか切り抜ければ、それで収まると考えられているのでしょうか?

私たちは、歯科医療が材料指導の改革ではなく、歯科医師中心の質のレベルアップを目指しています。基本的に、歯科は感染症との闘いです。10年いや20年先の治療の予後を見据えた日々の臨床での改善は、HIV感染症対策を契機に取り組む必要があると考えます。

演者のご紹介

前田 憲昭(まえだ のりあき)先生
  • 厚生労働省エイズ対策研究事業 HIV感染症の医療体制の整備に関する研究 歯科のHIV診療体制整備
  • 2007年から2014年 研究代表者 2015年から研究協力者
  • 日本HIV 歯科医療研究会 理事
  • 日本ラグビーフットボール協会
  • アンチドーピング委員会 委員 医科学委員会 委員
  • 関西ラグビーフットボール協会 医務委員会委員
ご略歴
1972年 大阪大学歯学部卒 口腔外科学第1講座入局
大阪大学大学院入学
1975年~1976年 米国Temple Univ.Fels Research Instituteに研究員として勤務
1977年 大阪大学大学院修了 歯学博士
1979年 大阪大学助手
1980年 兵庫医科大学助教授 歯科口腔外科学教室
1991年 医療法人社団 皓歯会 理事長
2002年~2006年 岡山大学歯学部臨床教授
2015年3月 理事長辞任

お問い合わせ

新潟大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面口腔外科学分野 髙木律男

e-mail : takagi@dent.niigata-u.ac.jp