新潟大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面再建学講座 組織再建口腔外科分野

教室の紹介

研究内容

組織工学的に作製したヒト培養骨・培養粘膜の基礎的・臨床的研究

 腫瘍切除後や外傷,あるいは補綴前処置時に口の中に比較的大きな粘膜欠損部が生じる場合に私たちの教室では培養複合口腔粘膜移植を行っています.手順は,手術の4週間前に外来で患者さんから米粒大の歯肉を採取し口腔粘膜角化細胞を培養に移します.傷の大きさはおおよそ予想がつくので,その面積に見合うまで角化細胞数が十分増えた段階で,ヒト新鮮屍体真皮(AlloDerm)の上に播きます.最初4日間は培養液に浸しておきますが,5日目にこの材料は空気に触れるようにさせます.7日も経つと十分角化した上皮がAlloDermと一体化して形成されるので,これを患者さんの口へ戻してあげます.術後は傷の治りが早く,非常にきれいな自分の粘膜になってくれます.世界的に例をみないこの材料はAlloDermのおかげで操作が非常に簡単ですし,培養液中にはウシ由来の物質を含まず,マウスの細胞と一緒に培養されることもないので,安全性の面でも汚染の危険性がない非常に優れた培養システムです.

顎変形症の診断と治療に関する臨床的研究

 顎変形症とは、上顎骨または下顎骨、あるいはそれらの両者の大きさ、形態、位置などの異常、上下顎関係の異常などによって顎顔面の形態異常と咬合の異常をきたすことにより、美的不調和を示す疾患です。本疾患は通常の歯科矯正治療のみでは治療することが困難で、歯科矯正治療とともに顎矯正外科手術が必要となります。我々は、その治療成績の向上のために、顎顔面形態と口腔機能の研究を行っています。形態に関しては、エックス線規格写真分析、三次元CT画像解析、デジタルカメラ・CCDカメラ・コンピュータを用いて手術前後の顎顔面形態を三次元的に分析しています。術前後の顔貌の変化について分析し、骨(硬組織)の変化量のみではなく、顔面皮膚(軟組織)の変化量を求めて手術の評価を行い、将来的にはコンピュータ上で術後の顔貌を患者さんに提示できる方向へ向けて研究を行っています。また、機能に関しては、咬合力測定装置を用いて、手術前後の咬合力の改善度を定量的に計測するのみではなく、術後に咀嚼訓練を行い、術後の咀嚼能力をより向上させるための研究を行っています。

顎変形症ならびに口唇口蓋裂患者の心理学的研究

 顎変形症や口唇口蓋裂の患者さんでは、青年期の心理的に不安定な時期に、顎変形や口唇・鼻の変形から自信の喪失や社会的適応の低下ならびに心理的障害をきたし易いと言われています。また、顎矯正手術や口唇鼻修正術は、良好な咬合状態と顔貌形態を獲得する手術であり、患者さんの心理面にも良い影響が表れると言われています。
 われわれは、顎変形症や口唇口蓋裂の患者さんに複数の心理テストを行い、その心理学的特性を把握するとともに、患者さんが心理的にどのような問題を抱えているのか、また手術によってどのように変化するのかといった点を解明し、個々の患者さんに合わせて心理面でもより良いサポートができる治療システムを確立しようと考えています。

頭頸部癌の診断と治療に関する基礎的・臨床的研究

 口腔がんの治療成績は向上してきていますがしかし依然として進行がんの治療成績は不良です。その大きな要因は局所および頚部の再発と遠隔転移です。これらの問題を解決するために腫瘍研究班では口腔がんの診断と治療、口腔がんの浸潤、転移に関する臨床的および基礎的研究を行っており、特に口腔がんの予後に関与する臨床的、病理組織学的および分子生物学的因子の決定、標準的治療、形態と機能の保持を目指した治療、がんの化学予防、リンパ節転移の免疫組織学および分子生物学的機序などについては力を入れています。

  • 口腔がんの診断と治療
  • 口腔がんの予後に関与する因子の検索
  • 口腔がんの標準治療
  • 口腔がんの光線力学的治療
  • 口腔がんの化学予防
  • 口腔がんの個別化治療
  • 口腔がんの浸潤、転移に関する基礎的研究
  • リンパ管新生因子VEGF-family
  • Cyclooxygenase (COX)
  • 血中腫瘍細胞
  • 休眠療法
  • Sentinel node navigation surgery

閉塞型睡眠障害の診断と治療に関する基礎的・臨床的研究

 閉塞型睡眠呼吸障害とは、睡眠時に上気道が狭窄または閉塞することに伴い換気障害を認める疾患である。本疾患では、無呼吸低換気発作に伴い低酸素血症や血圧の上昇、頻脈を認め、重症例では高血圧症や虚血性心疾患、脳血管疾患との関連も指摘されている。また、頻回に覚醒を繰り返して睡眠が浅くなるため、日中の過度の眠気や起床時の熟眠感の喪失が認められる。われわれは、本疾患の診断に、問診、終夜睡眠ポリグラフならびに頭部X線規格写真を用いた形態分析を用いている。治療は、単純いびき症から中等度までの閉塞型睡眠時無呼吸症候群を対象として、閉塞部位や骨格形態の分析結果をもとに、口腔内装具やレーザーを用いた口蓋垂軟口蓋形成術(laser assisted uvulopalatoplasty)、RadiofrequencyTherapy、外科的矯正治療など種々の治療法を選択して用いており、その治療効果と適応症について検討している。

歯の移植に関する基礎的・臨床的研究

 1992年から現行の方法で歯の移植を行っており、現在では、2000年に本学附属病院に開設された「歯の移植外来」で、年間60例以上の歯の移植を行っている。これらの症例に対して、移植歯の歯根表面の性状と経過、移植後の根管治療と歯根膜治癒との関係など、予後因子についての臨床的検討がなされ、治療方法の確立に寄与している。しかし、歯の移植は大部分は即時移植であり、これには健康な移植歯と受容部が同時に存在しなければならず、適応症に制限がある。それを拡大する目的で、凍結保存歯の移植の検討も行っているが、国内外でこれを行っている施設は少ない。ラットを用いた予備実験では、凍害防止剤の使用と緩速凍結による凍結方法によって、凍結保存歯も即時移植歯と同様に歯根膜再生が確認されているため臨床応用できると考えている。臨床的には現在までに49例84歯を凍結保存し、そのうちの4例4歯を移植して経過観察中である。

骨延長法ならびに骨移植術に関する基礎的・臨床的研究

 近年、骨延長法は顎顔面口腔領域においても広く応用されるようになり、下顎骨の延長に加えて上顎骨や歯槽骨を延長するための様々な延長装置が開発され、その適応症も拡大してきています。われわれも、平成13年に顎提形成外来を開設し、顎変形症のみならず顎骨再建や低歯槽提症の顎提形成、癒着歯の矯正治療に顎骨延長法を導入しています。また、本外来では顎提形成に、下顎骨や腸骨から骨を採取して、ベニア法やサイナスリフトなどの骨移植術も行っています。
 本研究では、動物実験モデルを用いて顎骨延長のメカニズムや様々な骨形成促進法について検討し、臨床におけるより優れた治療法の導入にフィードバックしたいと考えています。

口腔顎顔面インプラントによる口腔機能再建に関する基礎的・臨床的研究

 近年、歯科インプラントは、歯の欠損に対する補綴的治療の一選択肢として定着してきた。
この歯科インプラントを口腔顎顔面領域の腫瘍切除後あるいは外傷後に生じた組織欠損や、同領域の先天異常に対して口腔機能と形態の再建、修復ないし構築に使用している。その応用範囲拡大を目的として基礎的・臨床的な研究を行っている。すなわち基礎的研究としては、歯科インプラント埋入のための骨組織の増量、ことに骨延長ならびに再生骨応用に関する研究、歯科インプラントの埋入部位、本数が周囲骨組織、ことに再建顎骨に及ぼす影響に関する有限要素法による力学的研究などを、また臨床的研究としてはインプラント義歯作製前後の咀嚼機能評価などを行っている。

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