新潟大学大学院 歯科麻酔学分野

新潟大学大学院 医歯学総合研究科 歯科麻酔学分野

外来での鎮静法

新外来手術室と鎮静法によるストレスの少ない歯科治療

2012/11月に新潟大学医歯学総合病院の新外来棟での治療が始まりました。歯科麻酔科外来は5Fにあり、そこには他に歯科手術室が3室完備されています。症例に応じて酸素吸入を行いながら心拍、血圧、経皮的動脈血酸素飽和度や心電図などをモニタして静脈内鎮静法が行われます。

適応は、全身疾患があり例えば循環動態に大きな変動を与えたくない場合や、歯科治療に対して不安や恐怖心の強い方、障害を持ち歯科治療が困難な症例などがあります。

もし該当される場合は現在のかかりつけの主治医の先生にご相談されて当科を紹介いただいてください。

歯科麻酔科診療室には鎮静法からの回復を待つベッド

これは痛みの治療の際に神経ブロックなどの処置にも使われます。この部屋にも酸素吸入や全身状態をモニタする装置が整っています。また2台の歯科治療ユニットと2つの診察室があります。

歯科麻酔診療室からの眺望は良く遠く越後の山並みも見え、また目の前にはヘリポートがありドクターヘリが緊急出動する場合もあります。

上のグラフは平成13年から23年までの当科外来で診察を行った新患患者数(青い棒 グラフ)、1年間の総診療患者(赤い棒グラフ)です。

年間250人程度の新患と、2500人以上を診療しています。

全身麻酔

新潟大学医歯学総合病院の中央手術室は医科、歯科の手術が行われています。歯科口腔外科と形成外科が共同で行う口腔顔面の腫瘍切除から再建に至る長時間な手術から歯科治療まで様々な手術が、全身麻酔や鎮静法下で行われています。

麻酔計画について患者さんの検査データと手術予定をもとに綿密なカンファレンスが行われ、安全でより合併症の少ない麻酔が行われます。困難な症例は医科の麻酔科との連携をとって麻酔が行われる場合もあります。

こちらは中央手術室での手術麻酔件数のグラフです。

最近では全身麻酔、鎮静法、あわせて年間500症例以上の麻酔を行っています。この中には全身麻酔下で神経再生手術を行ったペインクリニックの患者さんや、当科スタッフが主治医となり障害者や歯科治療に恐怖感の強い小児の歯科治療に伴う全身管理を行った症例も含まれています。

今後、このような症例が増加していくものと考えられます。

口や顔の痛み

歯科ペインクリニックで扱う主な疾患

  • 三叉神経痛
  • 三叉神経領域の神経障害性疼痛
  • 神経腫
  • 非定形歯痛
  • 非定形顔面痛
  • 顎関節症
  • 筋筋膜痛
  • 舌痛症
  • 味覚障害
  • 顔面神経麻痺

高度な痛みの診断/治療

当科は現在、世界でも最先端のMRIによる手法で、顔面の神経を直接画像で映し出すことによって、神経の切断または損傷部位を特定して、顔面の痛みの原因を検索できる唯一の施設です。

またさらに三叉神経損傷や神経腫による病変部を切除して人工神経管を用いた神経再生術を行うことができる唯一の施設です。

これらの最先端の診断から治療は、新潟大学脳研究所 統合脳機能研究センターおよび京都大学再生医科学研究所、奈良市稲田病院整形外科と共同してチームを組み治療に当たっています。

三叉神経の神経障害性疼痛

歯科治療の後などに生じた口や顔の周りの痛みや不快なしびれは、会話や食事といった人が生きてゆく上で重要な機能に障害を及ぼし、その精神的な苦痛は多大なものです。こうした原因の多くは歯科に関連した神経の損傷をきっかけとしていることがあります。これには抜歯や口腔外科手術、歯の神経(歯髄)の治療、局所麻酔、デンタルインプラント、顎の骨の中の炎症など広く歯科疾患や口腔顔面領域の処置があげられます。

しかしこうした不快な症状が歯科で診断や治療されているかというと、必ずしもそうとは言えないかもしれません。まず神経の損傷が発生しそれが慢性痛に発展するといった病態が歯科の中でも一般に認識されていない現在の歯科医療の状況があり、さらに同様な神経にダメージがあったと推測されたとしても、なぜ人によって慢性痛へと発展する場合とそうでない場合があるのかという素朴な疑問に加え、そもそも慢性痛にいたるメカニズムすら分かっていないのが現状です。

実際、当科には多くの患者さんが全国より受診されますが、“なぜ歯科治療の後にいつまでも口や顔、舌の痛みが続くのか”周囲や医療機関からも理解されず長期間、懊悩されているケースが多く見られます。

こうしたことから未だ適切な診断がされていない症例が少なからず存在していることが推測されます。

われわれの臨床がこうした方々の一助となれば幸いです。

口腔顔面の神経障害の診療手順

一般的な診療の流れについてご説明いたします。1泊2日の日程の場合です。症例により変動する場合がありますので、あくまでご参考にされて下さい。

私たちの診断で重視している点は、その顔や口、舌の痛みは口腔顔面領域の神経より起こっているものなのか、それとも別の離れた部位が原因で痛みを出しているのかを明らかにすることです。

前者ならばわれわれが中心となって痛みのコントロールを行ってゆくべきものですが、後者の場合はより適切な他科との連携で治療を進めてゆかなくてはいけません。

そこに誤った診断や無為な時間をかけることは患者さんの不利益につながるため、慎重に最善の方法と確認を積み重ね診断を進めてまいります。

上述した2日コースの初診例をお示ししましたが、痛みの診断や治療は短い受診回数で終わることはなく、どうしても長期間の継続的な通院が必要になってまいります。

その後の治療は、精密な検査結果の解析や再検査などを踏まえて多くのパターンに分かれます。

経過観察で良い場合から、各種投薬、漢方の処方、局所麻酔薬の塗布療法、理学療法、各種神経ブロックなどの単独もしくは併用で治療が行われますがいずれもペインコントロールが悪い場合には、神経の病変部の切除と神経再生術が検討されます。

神経再生治療

神経障害性疼痛の相当数が、損傷した神経の回復過程の異常で過剰に神経線維が不規則に再生したり、線維性結合組織の増生と一体になるなど、異常な神経の塊であるところの神経腫を形成しています。

われわれの新しい試みは神経腫を切除して人工神経管を用いて健全な神経再生を促す治療法で、臨床応用を始めています。

人工神経管はポリグルコン酸+コラーゲンからなり、京都大学再生医科学研究所で開発されたもので、神経再生手術の世界的な専門家である稲田病院整形外科とチームを組んで手術にあたっています。三叉神経領域での使用は初の試みで、徐々に症例を増やしつつあります。

しかしこの治療は感覚の異常や痛みを完全に消失させるものではなく、神経再生時には再生痛を伴うほか最終的には痛みがしびれに類似した感覚になってゆきます。

また、手術で神経を切除することから後戻りのできない治療です。

このため、他に有効な治療がある場合には選択肢にはならず、適応はかなり限られています。

歯科心身医学

適応

口腔顔面痛の歯科心身医学

口腔顔面領域における痛み、しびれ、違和感、といった不快な症状は日常生活に支障をきたし、その結果抑うつ感、不安感などの心理的なストレスを生じさせます。さらにこの心理的ストレスが持続すると本来の痛みなどの症状がさらに悪化し、非常に治りにくい慢性・難治性の病態に変化し得ることが知られています。

一方で、この心理社会的ストレスのみが口腔顔面領域に痛みなどの不快な病態を発症させ得ることも知られています。このような口腔顔面領域の痛みなどの病態の発症・増悪・慢性化に心理社会的因子が強く関与していると思われる疾患に対して、心身両面からの診療を行っています。

治療対象の病態には、三叉神経痛や三叉神経障害といった器質的疾患に心理的因子が強く関与している病態に加え、顎関節症、舌痛症、口腔異常感症、非定型顔面痛(歯痛)などの疾患のうち心理社会的因子がその主たる原因となっている病態に対して治療を行います。

歯科恐怖に対する歯科心身症

上記の口腔顔面痛に加えて、歯科心身症の代表的病態に歯科治療恐怖症があります。多くは小児期などに歯科治療時の異常経過、もしくは不快体験や恐怖体験をした患者に発症することが多いといわれています。

この「歯科が怖くて治療ができない」と訴える本疾患では、「歯科治療中の痛みが怖い」という程度の軽症の病態から、「歯科ユニットに座れない」、「口を開けられない」、さらには「診療室にさえ怖くて入れない」といった重症の病態まで様々みられます。このような歯科治療恐怖症に対し、精神鎮静法などの行動調整を併用しながら心身両面からの治療をおこなっています。

方法

各種心理テストや精神疾患簡易構造化面接法などを用いて患者の心理面の診断を行ったのち、その患者の病態や重症度に応じて、精神科や心療内科との連携のもとに簡易精神療法、薬物療法、自律訓練法、(認知)行動療法、などの心身医学的な治療を行っています。

障がい者の歯科治療

適応

いずれかの理由で歯科医院での治療が受けられない方たちが対象です。たとえば、待合室や診療室でじっとしていられずに暴れてしまう、知的な遅れがあり歯科治療に協力していただけない、麻痺があり体の不自由や緊張、不随意運動があり治療が困難、むせや飲み込みに障害がある、全身的な合併症や長期にわたる薬物の服用があるのなどの場合です。

方法

大別すると2つの方法に分けられます。通常の歯科治療と同様の歯科治療と、全身麻酔を使い、意識の無い状態での歯科治療です。

前者の意識下の歯科治療は1)不安低減や行動を変えてゆく行動学的な療法、2)反射抑制姿勢や安全のための身体抑制法などによる物理的な体動コントロール法、3)笑気ガスの吸入や、経口投与による鎮静、静脈内鎮静法を用いた手法です。

これらの方法でも治療が困難であったり、大きな侵襲が加わる場合は全身麻酔により治療が行われます。

この場合は多くの治療が一度に行える、確実な気道確保が行える、完全に体動が抑えられ質の高い治療ができる、患者さんへの心理的な負担が少ないという利点がある一方、入院による環境変化に対応が困難な患者さんは時として興奮や発熱、おう吐などを生じる場合もあります。また、治療内容や患者さんの状態により日帰り全身麻酔も行われています。

これらは、歯科麻酔科、小児・障がい者歯科、口腔外科がチームを組んで治療にあたっています。