実施報告

国際口腔生命科学コース設置にかかる現地視察調査報告書

平成17年10月21日から27日にかけて、医歯学系口腔生命科学系列教授宮崎秀夫、医歯学系歯学課庶務係長伊藤廣和及び財務部財務企画課企画調整係長高杉浩文の3人がスリランカペラデニア大学に赴き、国際口腔生命科学コース設置にかかる現地視察調査を行った。また、医歯学総合研究科副研究科長である医歯学系口腔生命科学系列教授山田好秋は、別途研究用務で同大学に赴いており、合同で調査にあたったものである。

国際口腔生命科学コースは、アジア地域における各国の口腔疾患の多さと劣悪な歯科医学の教育研究環境、日本で学んだ留学生がその知識・技術を有効発揮できない事情などに着目し、留学生に日本の歯科医学を教授すると共に、経済的負担を軽減し本学で留学生として学位を取得した現地教員に活躍の場を与え、もって国際社会の中での日本の役割の一端を果たす履修コースとして計画されたもので、今回のペラデニア大学訪問に係る旅費については、新潟大学から学長裁量経費として措置されている。

また、ペラデニア大学訪問時点では、「国際口腔生命科学コース」の計画は、文部科学省の募集した「平成17年度魅力ある大学院教育プログラム」の課題として申請中であり、採択された場合は平成17年度及び平成18年度の実施経費の一部が補助金として措置されることとなる旨の前提で当該大学と協議したものであるが、10月25日に採択内定された旨の通知があったものである。なお、調査に先立ち、平成17年10月7日から13日にかけて、ペラデニア大学歯学部長であるR. L Wijeyeweera教授及び歯学部基礎科学講座長であるC. D Nanayakkara教授が新潟大学歯学部を訪れ、国際口腔生命科学コース設置に関する事前打ち合わせを行い、両校の協力体制については事前に大筋で合意を得た上での現地調査となった。

調査項目については以下のとおりであり、計画内容の協議から実施する場合の現地の環境及び当該国の状況に及ぶ広範囲の調査となった。

調査項目

1.教育プログラム推進協議
1.プログラム実施計画協議
2.プログラム実施協定内容協議
2.拠点校の教育研究の状況(ソフト面)
1.管理運営状況調査
2.カリキュラム、学則等の調査
3.教育研究組織の調査
4.教育研究レベルの調査
3.拠点校の設備の状況(ハード面)
1.教育研究設備の状況調査
2.e-learning設備の状況調査
4.当該国の状況
1.社会情勢、物価、治安等の調査
2.教育制度の調査
3.口腔疾患に関する教育研究及び診療の状況調査
5.その他

1.教育プログラム推進協議

ペラデニア大学歯学部において、学部長であるR. L Wijeyeweera教授他各講座の教授17名の同席の下、山田副研究科長及び宮崎教授から、本教育プログラムの概要について、持参した歯学部概要、大学概要、プログラム概要、カリキュラム概要及びシラバス等により詳細に説明及び意見交換を行い、ペラデニア大学歯学部から合意をいただいた。

概要は以下のとおり。

1.プログラム実施計画協議

  • 当該留学生の経済的負担を押さえるため、大学院の課程4年間のうち、当初の1年間を新潟大学で、以降をペラデニア大学で学習させること
  • 学生に係る受験料、入学金、授業料、日本における生活費等の経費については、新潟大学側が負担すること
  • 新潟大学及びペラデニア大学の教員に係る旅費、最低限の設備備品等の本プログラムの実施経費については、新潟大学側が負担すること
  • 2年目以降の教育実施に関する教室等最低限の設備は、ペラデニア大学側の施設を使用させていただくこと
  • 教育の質を保つため、新潟大学の教員が定期的にペラデニア大学に赴き的確な指導を行うこと
  • 教育の一部をペラデニア大学教員から補助していただくこと
  • 博士課程を修了し論文審査に合格した者には、新潟大学の学位が授与されること

また、先の新潟大学訪問及び今回のペラデニア大学訪問に係る旅費については、新潟大学から学長裁量経費として支給されていること及び今後の必要経費の一部については、文部科学省の募集した「平成17年度魅力ある大学院教育プログラム」の課題として申請していることを説明した。

ペラデニア大学側からは、本教育プログラムの概要について深い理解が示され、新潟大学と共同して推進したい旨の発言があった。

プログラム実施計画協議

2.プログラム実施協定内容協議

本教育プログラムの実施に係る両大学における協定内容について、持参した「協定概要」及びシラバス等により詳細に説明し、協議した。

また、ペラデニア大学における教育支援体制及びペラデニア大学と新潟大学との役割分担について意見交換が行われ、協定締結に向けて合意が得られた。

なお、文部科学省の募集した「平成17年度魅力ある大学院教育プログラム」へ新潟大学として申請していることから、採択された場合はその旨を協定書に盛り込むこと及び署名者を新潟大学側は新潟大学長及び口腔生命科学専攻長とし、ペラデニア大学側は、副総長及び歯学部長としたいことが協議され、新潟大学側から、前向きに検討したい旨の発言があった。

2.拠点校の教育研究の状況(ソフト面)

1.管理運営状況調査

ペラデニア大学全体における重要事項については、大学内に設置された理事会及び議会において審議決定されている。

当該大学には、7つの学部、2つの大学院研究科、図書館、各種センター等及び事務部が置かれており、各々緊密な連携の下に運営されている。

歯学部においては、以下の理念の下、学部長の主催する教授会において重要事項が審議決定されており、各講座の教授等との緊密な連携の下、適切に管理運営されている。

歯学部の理念

免許を取得した歯科外科医は以下のようでなければならない

  1. 1.口腔組織の病的状態、歯の損失、社会的障害、総合的な健康状態の劣化にも通じるような、歯及び歯茎とそれらの関連構造の病気と健康状態についてのあらゆる知識を備えなければならない。
  2. 2.第1条で言及したように全ての病気と健康状態を認識及び管理でき、必要な個所を回復させなければならない。
  3. 3.口腔内の健康状態や健康管理に影響するような、もしくは現場での緊急事態につながるような全身の健康状態についての知識を備えなければならない。
  4. 4.現場において緊急事態を認識及び処理できなければならない。
  5. 5.第1条で言及した病気と健康状態に関連する全ての予防処置及び保健教育の原理についての知識を備えなければならない。
  6. 6.第5条で言及した予防処置を実行でき、個人・家族・共同体に対する保健教育の責任を負わなければならない。
  7. 7.スリランカのヘルスケアデリバリーシステム及び歯科外科医の役割についての知識を備えなければならない。
  8. 8.病棟内と、例えば血液バンクのような他設備の日常の仕事を常に意識していなければならない。
  9. 9.ヘルスケアの専門家集団(医学及び歯学)等の中において効果的に働かなければならず、必要に応じて主導及び監督しなければならない。
  10. 10.科学的原則を妥協させることなく、既知の治療処置を効果的な方法に変更できなければならない。
  11. 11.第1条で言及した病気や健康状態に対する治療及び管理において、現代社会に適った処置ができるよう十分な自己教育を続けなければならない。
  12. 12.スリランカの人々の口腔健康の地位向上のために設定された目標に向かって働くことを動機付けされなければならない。
  13. 13.歯科医師業の倫理基準を固守しなければならない。
  14. 14.治療にあたって患者への感情移入及び関心を示すことができなければならない。

(ペラデニア大学歯学部パンフレットから抜粋/和訳)

2.カリキュラム、学則等の調査

ペラデニア大学歯学部概要に掲載されている。(別添資料のとおり)

3.教育研究組織の調査

現在、ペラデニア大学には7つの学部があり、約6,600人の学部学生が在籍している。また、2つの大学院研究科があり、約1,200人が在籍している。その他、図書館、各種センター等及び事務部が置かれている。

なお、ペラデニア大学歯学部は、スリランカ国内で唯一の歯学教育機関として、スリランカ全土から学生が集まっており、優秀な卒業生を輩出しているとのことである。また、現在では、中国、インド等、アジア地域10カ国から臨床面の研修生を受け入れており、アジア地域における指導的役割の一端も担っている。

学 部
歯学部(病院と合わせて)常勤約60人、非常勤約20人、その他40人、農学部、芸術学部、工学部、薬学部、理学部、獣医薬・動物科学部
研究科
農学研究科、理学研究科
各種センター等
農業ビジネスセンター、工業デザインセンター、工業デザイン・コンサルタントセンター、人権学習センター、環境学習センター、ITセンター、農業バイオテクノロジーセンター

4.教育研究レベルの調査

教育カリキュラムは基礎科学講座(一般解剖学、歯科解剖学、生理学、生化学)が高度に統合され、全教職員参加により講義、実習、個別指導を第1学年に969時間実施している。準臨床科学(総合医学、総合外科学、細菌学、薬理学)、総合病理学、が2年次に開講され、3年次に実施される公衆歯科衛生教育プログラムは世界的視野に立ち、環境保健、社会・経済範囲まで網羅する地域の健康問題を洞察する方法論と実践論が含まれている。口腔衛生の現場にて口腔疫学の調査法、臨床予防歯科学、基本的なプライマリーケアを実践し、コンピューターを用いた問題分析や解析能力を育成している。歯科矯正学、小児歯科学、歯科補綴学、口腔外科学、口腔病理学、歯科保存学、口腔医学・放射線学、歯周病学を含む臨床科目は4年次修了までに、講義・臨床実習を履修し、理論、OSCE、口述試験、実技、コース内審査などにより厳密な評価を受けている。これら教育分野では、スリランカの歯科疾病構造や社会構造にマッチした必要十分なレベルであった。

一方、研究については、高度な研究機器が整備されていないこともあり、極めてシンプルな基礎的なものに留まっているように見受けられ、優秀な人材を十分活用しきれていないようである。特徴的な研究分野、例えば、口腔癌の疫学研究(スリランカは口腔癌の発症率が極めて高い)や地域歯科保健学・口腔疫学関連の報告は国際的科学雑誌に少なくない。英国、日本などへ留学した教員はそれぞれ高度な研究成果を持ち帰っているので、彼らの力を発揮できる研究環境が整えば飛躍的な研究成果が期待できると思われる。

3.拠点校の設備の状況(ハード面)

1.教育研究設備の状況調査

日本の経済的な援助(ODA等)により、同大学には1990年代後半に十分な施設設備が導入されたが、建設から10年程度経過した現在、建物については十分使用に耐えるものの、導入された学部教育用機器及び臨床教育に必須となる病院の歯科診療ユニット等の設備については、経年の劣化や故障により十分な設備とは言い難い状態であった。

なお、スリランカ国内における歯学関係の教育及び診療施設がペラデニア大学しかなく、機器等についても1990年代後半に日本の援助により導入されたものしかないため、国内に取扱業者等が存在せず、スリランカ国内で機器を新規に入れ替えること又は部品を調達修理することが非常に難しく、アジア諸国、特に日本の援助なしには今後の教育機器等の維持管理は非常に難しい旨の意見があった。

1.学部学生教育用の機器
コンピュータ:日本における最新機種に相当する機器もいくつかは見受けられるものの、実際に使用している機器の多くは日本における中古機器並みのスペック(cpu500MHZ程度でOSはウィンドウズ98)が多くを占めている状況であった。
顕微鏡等基礎的な教育用機器:光学顕微鏡等は、そのほとんどが1990年代後半に日本の援助により導入されたとのことであるが、劣化や故障により実習に必用な十分な数が確保できず、視察時には2学年同時の授業により70数人の学生(1学年の入学定員は75人)に対して30数台の顕微鏡による実習を実施していた。また、解剖学関係の器具として、解剖実習室及び解剖台等は十分な広さ及び数が用意されていたが、大型の照明器具は、日本においては簡単に修理できそうな故障であっても部品の調達ができないこと等により修理することができず、解剖台が8台以上あるのに対して2器しか使用されていなかった。
液晶プロジェクター、スクリーン:1990年代後半に日本の援助により導入されたものがあったが、液晶プロジェクターは故障により使用不可となり、スクリーンも劣化により不十分なものとなっている。導入当初は、日本からスリランカに帰国した教員等がパワーポイント等を用いて視覚的にも分かりやすい高度な教材を用いて教育を行っていたが、現在では、旧式のOHP等により映し出すだけの教材を主に用いての教育を行っている。当該国内で液晶プロジェクターを入手又は修理することは、取扱業者が少ないこと及び非常に高価なことなどから非常に困難であるとのことであった。

学部学生教育の機器

2.臨床実習用歯科診療ユニット及び周辺機器等
歯科用ユニット:歯学部附属病院において、臨床教育のために歯科用ユニットを使用して教育及び実習を行っているが、ユニットのほとんどが1990年代後半に日本の援助により導入されたものであり、トータルで200台ほどのユニットがあるとのことであった。しかし、その半数ほどは劣化や故障により稼働しておらず、こちらも日本においては簡単に修理できる程度の軽微な故障であっても取扱業者が国内になく部品の調達が非常に困難であること及び非常に高価であること等から簡単に修理することができず、教育面では十分な機能を果たしていない状況にある。
レントゲン関係機器:日本では一般的となっているパソコンとレントゲン機器間でデータを送受信できCD等の比較的大容量の記憶媒体にデータを保存することが可能な機器が導入されておらず、旧型のパソコンをレントゲン機器と連動させ、フロッピーディスクに少量のデータを書き込む等の措置を講じている状況であった。
聴診器等基本的な診療器具:日本においては安価な聴診器であっても、国内では入手することが難しいとのことで、絶対的な数が不足している状況であった。

臨床実習用歯科診察ユニット及び周辺機器等

3.大学院学生及び研究者用の実験機器等
各講座の教育・実験設備等:1990年代後半に日本の援助により導入された設備備品がほとんどであるため、旧態とした設備であることは否めないが、特に臨床系においては、スリランカ及びアジア地域特有の日本と違った症例が多く見受けられるとのことから、臨床データの豊富さが大きな利点となっており、各研究者はその環境の中で意欲的に研究活動を行っている。しかし、精製水の生成機器やパソコンなど、基本的な機器が故障等により使用できない状態となっている研究室や、日本では一般的である基礎的な計測器具(例えば、実験用の心電図計、筋電図計等)がない研究室が見られた。

大学院学生及び研究者用の実験機器等

2.e-learning設備の状況調査

大学全体にLANの設備があり、歯学部においても電子計算機室を備え、当該室には歯学部におけるメインサーバ1台の他、十数台の教育・研究用の共用パソコンが設置されている。

LANの回線速度は、100kb/bpsとされており、日本と比べると高速とはいえない状況である。使用しているコンピュータについても、最新鋭の機器は非常に少なく、日本における中古機器並みのスペック(cpu500MHZ程度でOSはウィンドウズ98)をもった機器を中心に使用している状況である。

本学が計画しているe-learningを用いた教育方法を実践するためには、既設の機器では若干スペックが不足気味であること及び回線速度が日本の環境とは異なり遅めであることから、本学が計画しているe-learningに適した専用の機器をペラデニア大学に設置し、環境に適したセッティングを施す等して日本とスリランカとの相互の通信に備える必要があることの説明を受けた。

なお、機器の設定及び通信の環境が整備されれば、電子計算機室を本プログラムにおけるe-learning用の教室として使用することについては差し支えない旨、歯学部長であるR. L Wijeyeweera教授から同意を得た。

e-learning設備の状況調査

4.当該国の状況

スリランカ経済基礎データは、以下のとおり。(出典:スリランカ中央銀行年報)

1.人口:
1,901万人(2002年央推定値)
2.名目GDP:
165.7億米ドル(2002年、市場価格表示)
3.一人当たりのGDP:
872米ドル(2002年、市場価格表示)
4.実質GDP成長率:
4.0%(2002年)
5.通貨:
ルピー(1ルピー=約1.22円、1米ドル=96.752ルピー(2002年末値))
6.貿易:
輸出(FOB)47億米ドル(2002年) 輸入(CIF)61億米ドル(2002年)
7.経常収支:
−2.62億米ドル(2002年)
8.外貨準備高:
25.0億米ドル(2002年末)
9.消費者物価上昇率(コロンボ):
9.6%(2002年)
10.失業率:
9.2%(2002年推定値)

1.社会情勢、物価、治安等の調査

1.社会情勢
空港のある首都コロンボからペラデニア大学のあるキャンディーに至る地域では、2002年2月の停戦合意以降、停戦合意を崩壊させるような事件は発生しておらず、安定した状況が続いている。
2004年7月7日にタミル人政党党首暗殺未遂事件や2005年8月12日に外相暗殺事件が発生したが、これら事件は、特定人物を狙った事件であり、一般の治安情勢の悪化を示すものではないと見られている。テロ以外の一般治安情勢については、住居への侵入窃盗や強盗事件が増加する傾向にあるが、国内は総じて安定した状況にある。
しかし、今後、政府とLTTEの和平プロセスの動向によっては、状況が不安定になる可能性もあるため情報収集や安全対策に努める必要がある。
2004年に発生したスマトラ沖地震による津波の被害については、多大な被害を受けた西側海岸地域の一部を除いておおむね復旧しており、特にコロンボ周辺の海岸地域で、被害が深刻なものではなかったことから、目に見えた被害の痕というものは見受けられなかった。
2.物価
伝統的には米と3大プランテーション作物(紅茶、ゴム、ココナッツ)を中心とする農業依存型経済であったが、近年工業化による経済多角化に努力を傾注し現在の最大輸出品目は衣類製品であるとのことである。
政府は83年以降悪化した経済状況の建て直しを図るため、世銀・IMFとの合意に基づき88年より財政支出の削減、公的企業の民営化、為替管理を含む規制緩和等を内容とする構造調整政策を実施してきている。その影響もあって、首都コロンボからキャンディーに至る地域の都市部では、外資系企業の進出も多く見られる。
市民の収入は上下に幅があるため、一概に平均値で比較することは難しいとのことであるが、一般的な給与所得者の収入が日本の10分の1程度であるといわれている。

社会情勢、物価、治安等の調査

3.治安等
治安情勢については、2005年8月12日、コロンボ市内の外相私邸において、同外相が何者かに射殺される事件が発生したため政府は犯人逮捕を目的に国家非常事態宣言を発出し、コロンボ市内では犯人逮捕に向けた検問や政府主要機関の警備が強化されており、市内の至る所に自動小銃を携帯した軍の関係者が警備に当たっており、そのためか、同市内における治安状況は概して安定している。同暗殺事件は、無差別テロとは違い、特定人物(政府要人)を狙った事件であり、市民生活等を脅かす直接的な脅威ではないと見られているが、不測の事態に巻き込まれる可能性も否定できないため、政府主要機関や重要経済施設等へはできるだけ近づかないことがいわれている。
また、北部・東部地域を支配する過激派(タミル・イーラム解放の虎:LTTE)が、同地域の分離・独立を主張し、政府に対する武力闘争を続けてきており、政府とLTTEは、2002年に停戦合意を成立させ、現在まで一部の違反事件を除き合意は基本的に守られているが、北部・東部地域への渡航については、政府の完全な掌握下にある一部地域を除き、情勢が安定するまでの間延期することをすすめられている。北部・東部地域以外では、概して治安状況は安定しているが、各地域に特有の事情があるため、渡航時には最新情報を入手するよう努力する必要がある。政府とLTTEとの停戦合意後、和平交渉は6回にわたり行われたが、2003年4月以降中断しており、政府側とLTTE側との間には、停戦合意についての意見対立があり、今後の和平交渉再開の目処はたっていない状況とのことである。スリランカの治安情勢は、北部・東部地域に限らず、政府とLTTEの和平プロセスに少なからず影響されるため、常時、和平プロセスの動向を注視する必要があるとのことである。

2.教育制度の調査

教育制度は原則として5・4・2・2制であり、初等教育5年、前期中等教育4年の後、2年の後期中等教育は全国統一試験O(オー)レベル受験のための準備期間とされている。Oレベルの合格者だけが高校に進学する。さらに高校の2年間は、大学進学資格となるAレベルを受験するための準備期間となる。

小学校に入学した生徒のうち、Oレベルに進む生徒は約70%。Oレベル合格者のうち、高校に進む生徒は約36%。大学進学はかなり難関とされており、受験者の1割程度となっている。ほとんどの生徒が、中学あるいは高校卒業後に就職するため、外国語や経理といった実用的な方面に人気が集まっているとのことである。

3.口腔疾患に関する教育研究及び診療の状況調査

口腔疾患に関する教育研究については、こちらを参照。

診療に関しては、(一部、十分に稼働しないものもあったが)デンタルユニットでの一般歯科治療が行われており、日本と比較して特記すべき差異は認められない。学生臨床実習に加え、アジア諸国から集まった臨床研修生の指導が行われているように、臨床教育スタッフは質・量共に整備されているように見受けられた。口腔癌や前癌病変(白板症、赤板症、紅色苔癬、粘膜下線維症など)の発症が世界でも有数の高率国ということもあり、病床稼働は100%状態であった。これは口腔病理学、口腔外科学の症例数の多さゆえの診断・治療技術が進んでいることを示唆している。また、実際に現場を見ることはできなかったが、教育、実習チームによる過疎、無歯科医地域でのプライマリヘルスケア活動(初期歯科治療を含む)の実践はスリランカの歯科保健を取り巻く環境を良く表している。

5.その他

前述の1から4の調査により、以下のとおり本プログラムについては支障なく、教育の質を確保しながらの実施が可能であると判断された。

  1. スリランカペラデニア大学歯学部としては、本プログラムの実施について全面的に賛成であるとの意向であった。
  2. ペラデニア大学歯学部の教育研究レベルは日本と比べて決して低いということはなく、地域特有の研究課題をとらえ、積極的に教育研究を行っており、本プログラムの実施については、一切支障はない状況であった。
  3. 学部の基礎的及び臨床的な教育設備・機器が貧弱であり、簡単な援助により機器の機能回復等が見込まれるため教育の一層の進展が見込まれる状況であった。
  4. 研究設備・機器が教育設備と同様に貧弱であり、簡単な援助により機器の機能回復等が見込まれるため、研究の一層の進展が見込まれる状況であった。
  5. 当該国内にいながらにして新潟大学の学位を取得できることにより、学生の経済的負担が少なく、学位取得後も当該研究者が国外に流失するなどの心配が少なく、以降当該大学で教育研究に携わっていくことが期待できることにより、当該大学及びスリランカの歯学会においても大きな利益が期待できる状況であることが双方の大学間で改めて確認された。
  6. このプログラムを実施し、スリランカから周辺アジア地域に拡大してゆくことにより、当該大学から当該国、ひいてはアジア地域における研究者の活躍の場を提供することにもなり、国際貢献の一端をになうことが望まれることについて、双方の大学間で改めて確認された。
  7. 学生の研究課題については、日本の最先端の機器を用いて実施するような課題ではなく、アジア地域特有の疾病に関する課題や、多くの基礎的データの蓄積を必要とするものなど、スリランカの特色に合わせた研究課題を設定することにより、大学院教育を実施し学位を取得させることが可能であると判断された。
  8. e-learningの実施については、ペラデニア大学側の機器及び回線の速度について若干の調整が必要となるが、基本的な構成については問題なく、運用面で対応可能と判断された。
  9. 教育用機器の一部が老朽化又は故障していることなどから、教育実施に必要な最低限のフォローが必要となるが、大規模な経費が必要となるものではないため、運用面で対応可能と判断された。

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