ご挨拶Greeting

 新潟大学大学院医歯学総合研究科・生体歯科補綴学分野を担当しております、魚島と申します。全く新しい当分野の発足は平成20年(2008年)6月のことでした。歯に冠を被せたり義歯を作ったりすることを専門とするのが補綴歯科学で、当分野の教育担当は冠を被せる治療に関する講義・実習を主としています。外来診療でも主として補綴治療を中心にしています。しかしながら、単に歯の治療をするだけであっても生体には何らかの反応があるはずで、これを根本的に理解せずして食事をするための機能を長期的に維持することはできないという考え方の下に、研究面では生物学的なアプローチを主としています。当分野の英語名は「Bio-Prosthodontics」ですが、このような概念は世界中にも存在しないことから、今でも海外に行くと「それ、どういうこと?」と聞かれます。詳しくはスタッフの研究内容をご覧いただきたいと思いますが、私共は「研究のための研究」をすることに意味があるわけではなく、歯科医師としてあくまでも臨床的な課題を解決するための基礎研究を行うべきであることを常に念頭に置くように心がけています。
 教育に関しては私の前職が歯科の臨床教育を専門としていたことから、現在でも歯学教育に関するあらゆる取り組みを行っています。これもスタッフの研究業績をご覧いただければご理解いただけると思いますが、当学部においても主たる冠やブリッジの講義・実習に加えて、歯の形に関する講義・実習、実際の患者さんを模した一つの模型であらゆる歯科疾患に対して治療を行う本学独自の総合模型実習、一人一人の患者さんの具体例を用いて総合的な治療計画を考える演習である歯科臨床推論等も担当しております。冠やブリッジに関する講義・実習も、従来のあり方を大きく変更し、ウェッブコンテンツによるその日の実習内容に関する事前学習⇒講義⇒小テスト⇒グループディスカッション⇒実習⇒学生によるプレゼンとフィードバック⇒電子ポートフォリオ記載という流れを毎回繰り返し、自ら考える科目として生涯学習に備えることを目標にしております。
 一方、私が長らく国際関係の副学部長を担当させていただいたことから、歯学部の国際化も常に念頭に置いております。歯学部の学生を2週間海外の歯学部に派遣するプログラムや、海外の学生を2週間受け入れるプログラムの構築に始まり、当分野の若手スタッフも積極的に海外に派遣しております。当分野の教員はほとんどが数年に及ぶ海外留学を経験しており、1名はボリビア出身ですので、分野内では英語によるコミュニケーションに問題がありません。また、大学院生は在学中に少なくとも1回は海外の国際学会で発表をしており、週に1回は英語によるジャーナルクラブを行っています。また海外からの大学院留学生も積極的に受け入れており、現在はタイ、中国、ベトナムの留学生が1名ずつ在籍しており、近いうちにミャンマーからの大学院生も受け入れる予定です。
 医療提供者としての歯科医師は、常に患者さんの立場に立って、その時その時で何が最良の治療かを真剣に考えるべきです。歯に冠を被せる、入れ歯を入れる治療の目標は食事をする機能の回復であり、補綴歯科治療は一人の患者さんにとって最終段階に位置します。したがって、補綴治療の専門家は患者さんの口の中全体を俯瞰する歯科治療のコンダクターであり、一口腔単位の治療、一患者単位の治療を常に心がける必要があります。私が常に心がけているのは自分に以下のように問いかけることです。「その治療は自分が受けても納得できますか?自分の子ども、兄弟、両親、祖父母にも同じ治療をしますか?」
 これから歯学部に入って歯科医師を目指そうと思っている皆さん、大学院に進学しようとしている皆さん、私たちと一緒に歯科の未来を切り拓きませんか?お待ちしています。
新潟大学大学院医歯学総合研究科 生体歯科補綴学分野
教授 魚島勝美