学生と卒業生によるキャリアパス座談会

歯学部を卒業し国家試験に合格すると、皆さんは医療人として社会で働くことになります。このページをご覧の皆さんは、希望に満ちて社会に飛び立たれると思います。しかし、いわゆるコロナ禍における医療ひっ迫報道などもありましたが、医療人は仕事が大変だと不安になる方もいるかもしれません。また、働き方改革やライフワークバランスといった言葉も耳にするようになり、どのように自分の時間を使うかが重要になってきているようです。 これは大学生が将来を考える際にも重要であり、特に女子学生では、様々なライフイベントとキャリアと兼ね合いについて不安に思うことが多いようです。そこで、これらをテーマとして、活躍される女性の先輩方と在学中の学生さんとの座談会を開催しました。医療系学部は就職する職種が限られることもあり、将来設計を踏まえて受験を考えている方もおられるかと思います。この座談会は受験生の皆さんの将来選択の参考にもなるかと思いますので、是非ご覧ください。

今回の参加者

井上歯学部長(摂食嚥下リハビリテーション学 教授)
濃野先生(口腔保健学 教授)
N先生(臨床歯学分野教員)
Y先生(基礎歯学分野教員)
K先生(卒業生歯科医師)
M先生(卒業生歯科医師)
学部生,大学院生,研修医の皆さん

はじめに

濃野先生:
本日はお忙しい中にご参集いただきありがとうございます。今回、様々な分野で活躍されている女性の先輩方に来ていただいて、女性の働き方をテーマに、学生の皆さんとお話をする機会を設けました。井上学部長にも来ていただきましたので、皆さんでざっくばらんにお話をしていただければと思います。

働く上での苦労したことを教えてください。

濃野先生:
最初に、女性として働いていく上で、何か苦労したことはありましたか。昔はこんなふうだったけれど、今はこうなっているから大丈夫とか、むしろ今のほうがきつくなっているなぁというのも含め、どうでしょう。在学生や高校生の方とかは、就職について気になるところかと思います。
井上先生:
以前は、歯科医師というと男性社会であり、女性が働く環境が決して良くなかったという部分もあるのかなあと思うのです。その点で今の学生さん達が参考になるようなお話しもありますか。
N先生:
井上先生が言ったまさしくその世代を生きていましたが、実は、私は女性が働く上での苦労はしていないんです。なぜならば、常に私の上司になる教授の方は、奥さんもキャリアウーマンで、女性が働くこと、子どもを育てることに対してすごく協力的で、理解を持ってらっしゃったんです。私の場合は、その様な中で、研究して英語の論文を書くことを継続できました。子どもを産む前に、ある程度自分が何でもできるようになって、また職場に戻ってきてねという状態になってから子どもを産むというのも良いんじゃないかって、そんな気がします。
濃野先生:
なるほど。大きなライフイベント前に準備していたということですね。そういえば昔は女性の教員はほとんどいなかったような記憶がありますね。同じ職場で女性が少ないと問題もありましたかね。
K先生:
お酒を飲みながら仕事の相談をしたり議論を交わしたりしたくても、まわりに同性の同僚がいないと、できないこともありますね。

濃野先生:
そういう環境は、大事ですものね。
濃野先生:
就職についてはどうでしょうか。
Y先生:
私の場合は特に就職するときに困ったことはありませんでした。私は大学院を修了後、研究を続けたくて大学に就職を希望しました。当時から女性研究者はかなり少ない状況だったので、頑張って!とエールをいただき採用してもらいました。ですので、女性だから就職に不利とは特に感じませんでした。
本当に研究が大好きで、昼夜問わず夢中で仕事に没頭していました。が、子供が生まれた後は時間の使い方が完全に変わり、限られた時間で仕事をしています。研究者の働き方の良いところは、1日の仕事の時間割を自分で決めて使えるところです。私は8時に出勤して、頭が冴えている午前中に論文や研究費の申請書などの書き物を中心にやります。お昼過ぎは立ち仕事を入れることが多いですね、座ると眠くなるので(笑)。夕方になって頭も体も疲れてきたら雑務処理などをして5時には帰宅します。急がないメールの対応や翌日の準備などは子供を寝かしつけてから夜にやります。この働き方を上司は理解してくれています。プレッシャーはかけられませんが、きちんと結果を出して、研究成果を発表できるように自分で責任を持って仕事しなさい、という感じです。
井上先生:
考えてみると、本日お呼びした4名の先生は、困難を乗り越えたかどうかは別としても、うまく乗り越えられた先生ばかりということでお呼びしてしまったということになりますね。
M先生:
女性が働く上で、大変そうだなっていうのは、やっぱり小さい子どもは月一ぐらいで具合が悪くなっては、仕事を休まなきゃいけないことですね。
就職に関しては、歯科医師であれば就職に苦労することは今後もないのかなと、私の印象では思います。むしろ足りないぐらいだから、誰かいませんか、なんていう声が聞こえてくるので、就職に関してはそんなに心配しなくていいのかなと思っています。
濃野先生:
ありがとうございます。研究者、歯科医師として働くという面で、女性だから不利になるということはあまりなさそう、という感じですね。高校生の方々にとっても、自信を持ってどうお勧めできますね。

男性の育休について。

濃野先生:
先日、厚労省が発表した「令和4年度雇用均等基本調査結果」によると、育休取得者の割合は、女性で80%を越える一方、男性では17%しか取得できていないという事実がありました。政府としては来年度、再来年度までには、男性の50%に、令和30年度、7年後までには85%に育休取ってくださいと目標にしています。男性の育休についてはどう思われますか。まず、K先生の経験をお聞きしたいと思います。
K先生:
夫が公務員で、1年間育休を取ってもらいました。
濃野先生:
1年間!(驚き)
K先生:
早く私も仕事に復帰したかったので、保育園に預けようかなとも思ったんですけども、制度もありますし、夫の職場では積極的に取得するように言われていましたので、取得してもらいました。夫は育児の「お手伝い」ではなくて、当事者になって、全てできるようになってもらっているので夫婦そろって一緒に育児頑張った、という感じです。
濃野先生:
旦那さんがずっと休んでいたということですか。
K先生:
はい。1年間ずっと休むので、代わりの人員が配置されて。仕事的にも困らないということで。
濃野先生:
代わりの人員がきちんと配置されると休む方も休みやすいですよね。
N先生いかがですか。
N先生:
どういう育休の取り方があるかをみんなで考えればよいと思っています。例えば私が留学していたフランスは交代で1か月間いなくなる期間があるけど、データはシェアする形をとっていたり。いったん保育園のお迎えで抜けて、その後また戻って仕事をしたり、戻らない時もネットでデータのやりとりをしたり。今は本当にいろんな働き方がありますよね。だから男性の育休も、それは駄目というふうに頭ごなしじゃなくて、どうすればいいか、みんなでやり方を考えて、シェアすればいいと思う。それは育児休業だけでなくて、親の介護とかが始まった場合も同じ。職場の中で、うまくやっていけば、全然怖いものじゃないし、むしろ、集中することで生産性は落ちないし、反対に上がっていくと思っています。
濃野先生:
相互の理解は大事ですね。情報共有については、今の時代こそできるような気がします。M先生、いかがですか。
M先生:
私が産休育休をとらなかった理由としては、開業医ですし、代わりの人がすぐ見つかるような仕事ではないことがありますね。私は退院してすぐ6日目で働き始めました。体はつらいけど、その前に患者さんを何とかしたいんだという思いが強くて。でも男性がもし育休を取れる環境にあるんだったら、取ったほうがいいと思います。保育園は0歳児から入れましたが、お母さんとして子どもと一緒にいたいという思いが強ければまた別だとは思いますけど、働きたいという思いがあれば保育園の利用は大賛成かなと思っています。
濃野先生:
ありがとうございます。この職業に限らず、高度専門職、技術職は、代わりがあまりいないというのもありますし、短期間のために代わりの人員が来てくれるということもなかなか難しいところが多いのかもしれませんね。
井上先生:
さっきのM先生の話を聞いて、歯科医ならではの悩みかなぁと思うのは、30歳から35歳くらいって歯科医としては技術も経験も一番積みたい時期じゃないですか。子育ては代えられないけど今の時期に技術と知識をもっともっと研鑽、身に付けたいという一番の時期と結婚、子育ての時期が重なるのがジレンマかなと思いました。
もちろん、今の若い男性歯科医師にも育休を取りたいと言われたら、全面的に支持はしますけど。
K先生:
今、若い世代の人は、男性も育休取ることに積極的だったり、増えてきていると聞いています。
M先生:
周りを見ていると、かなり男性の育休取得が増えている感じがしますね。私の周りでも、旦那さんが育休を取得したとの話も聞きます。それで、旦那さんが1年間ずっととっていて長過ぎるから逆にもっと短くしてよと思うんですって相談されるくらい(笑)

K先生:
産後すぐ育休とるんじゃなくて、離乳食の期間とか、奥さんが仕事に復帰する直後とか、いろんな期間、いろんな時期の取り方もありますよね。
井上先生:
大学病院では、非常勤の歯科医師も常勤の教員も、産休育休の代替に当てる人員が配置されるようになりました。ですから、すごく取りやすくなっています。
濃野先生:
それは男性でもいいということですね。
井上先生:
男性も、もちろん。
濃野先生:
ぜひ使っていただきたい。

働く上でよかったこと~サポートはあったか?~

濃野先生:
職場からのサポートや、公的なサポートは皆さん受けられていますか。
Y先生:
大学に事業内保育園があり、娘を4ヶ月から保育園に預けました。旭町キャンパスの敷地内に保育園があるので、出勤直前に娘を送って、退勤してすぐにお迎えに行けます。授乳もさせてくれるので、月齢の小さい時は終業時間中に1日2回授乳に行っていました。研究室から保育園まですごく近いから、15分くらい仕事の隙間時間にパッと行って来られます。フルタイムで復職しても、赤ちゃんと触れ合える時間を確保できたのはすごく良かったですね。
濃野先生:
理想的な環境ですね。K先生はいかがですか。
K先生:
私は休んだ間は、代わりの先生をお願いしたのですが、なかなか見つからなくて。最終的にはご夫婦で開業されている先生にお願いできることになりました。
濃野先生:
学生の皆さんも、皆さん将来働いた時に、どういう支援を受けられるのか知っておいてもらうのがすごくいいのかなと思います。

大学院に進むことや大学で働くことについて。

M先生:
大学は、臨床も研究も教育も全部するので、私は大学に残っていらっしゃる先生たちを尊敬のまなざしで見ています。
井上先生:
N先生すごいなと、いまだに臨床も研究も教育も第一線ですね。
N先生:
とにかく私は学生教育が好きなので、実習の担当教員をずっとやってこられたのは、突き詰めると、それが楽しいからなんだと思います。初めて歯を削るところから始まる。数カ月かかって、最終的には本当にみんなうまくなって。あれを見ていると、毎年毎年が楽しいんです。

井上先生:
楽しいという先生のそのマインドとともに、楽しいという環境にさせてくれる職場の環境が大事なんですよね。私自身も、もともと基礎の講座に所属していたのですが、20年ほど前に、時代の要請もあって高齢者歯科や摂食嚥下障害の臨床講座に異動するということになりました。最初は右も左もわからずまったく楽しくありませんでしたが、患者さんを通して臨床の楽しさが分かるようになりました。そして、そのモチベーションをつくるのは自分だけでなく、病院や医局など周囲の環境も大事なんだと思います。
N先生:
今のすごいポイントで、やってくるうちに楽しくなってくる。
M先生:
私の場合は、大学院時代に、やはり患者さんとコミュニケーション取って触れ合っていくのが、自分には向いているんだって思えた時でもありました。学生の皆さんには、いろいろ経験して、これが楽しい、これがやりがいあるというふうに見つけて、そこを続けてもらえればいいんじゃないかなと思います。
N先生:
大学で仕事をしていると、臨床と、研究と教育があって、例えば、研究で上手くいかなくて、外来に行かざるを得ない。外来に行くと、患者さんとお話ししているうちに、心もほぐれて、やっぱり臨床楽しいなあと思えるし、臨床と研究で上手くいかなくても、毎週1回2回は教育があるので、教育で頑張ろうと思える。3つあると、どれか必ず楽しいので、大学の仕事はそうやって楽しめればと思っています。
井上先生:
N先生のお話しを聞いて思ったのは、メジャーリーグの大谷選手はピッチングもバッティングどっちも100点取りにいってますよね。どっちも100点取りにいって、相乗効果が出て良い結果が出ている。N先生は三刀流で、どれも良いお仕事をされていますね。

最後に。

学生Aさん:
これまで大学で過ごす中で、特に男性だから、女性だからって、意識することなく勉学も部活なども集中できていたので、新潟大学の歯学部は、性別に関係なく頑張りたい人は頑張れる場所だと思っています。だからそこは安心していいかなと思います。これからキャリアを考える中で性差が出てくることは、たくさんあるなっていうのは思いましたが、今日こちらに参加し先生方のお話を伺って参考になりました。
濃野先生:
そう言ってもらえると、座談会を開催して良かったと思えます。高校生の方にとっては、歯医者さんって虫歯を削るとか、そういう処置をするイメージが大きいと思いますけど、実際は海外での研究や、学生教育など、いろいろ先が広がるものであると思います。新潟大学歯学部というのは、開かれているところだと思いますし、性別に関係なく活躍されている先輩たちがたくさんいます。ぜひ新潟大学歯学部で充実した学生生活を送ってもらいたいですね。