口腔生化学分野の照沼美穂教授らが、アストロサイトが担う神経毒代謝の制御メカニズムを解明しました

2025年12月26日 トピックス 研究結果

本学医歯学総合病院歯周病科の那須優介歯科医師、口腔生化学分野の照沼美穂教授らの研究グループは、脳内のアストロサイト(注1)に発現する興奮性神経伝達物質グルタミン酸(注2)の代謝酵素であるグルタミン合成酵素(GS)(注3)の発現量が、アミノ酸の代謝産物であるアンモニアによって制御されていることを明らかにしました。脳内の過度の神経興奮を抑えるGSは、てんかん(注4)やアルツハイマー病患者で発現低下が認められています。これらの患者では、血液中のアンモニアの上昇も報告されていましたが、その病態生理学的な意義は明らかではありませんでした。本研究では、脳内GSの発現がHippoシグナリング経路(注5)で制御されていること、また、脳内のアンモニア濃度が過剰になると、Hippoシグナリング経路の活性化によりGSの発現量が低下し、グルタミン酸やアンモニアの代謝機能が低下することで、これらの物質が神経毒性を発揮してしまうことを明らかにしました。Hippo経路を阻害することによりGSの発現が回復し、神経細胞死が抑制されることから、本成果は、てんかんやアルツハイマー病に限らず、脳内のアンモニア濃度の上昇を伴う神経・精神疾患に対する新しい治療戦略の開発につながることが期待されます。尚、本研究の一部は今井真実子歯科医師、横山望実歯科医師が本学歯学部在学時に取り組んだものです。本研究成果は、12月13日に国際学術誌「 Communications Biology」 のオンライン版に掲載されました。

 

(注1)アストロサイト:
星形の形をした脳の支持細胞で、神経細胞の働きや代謝を支える。脳内で最も数が多いグリア細胞の一種。

(注2)グルタミン酸:
神経の興奮を伝える主要な神経伝達物質。正常な記憶・学習に必要だが、過剰になると神経細胞死を引き起こすことがある。

(注3)グルタミン合成酵素(GS):
アストロサイトに特異的に発現し、神経毒性のあるアンモニアとグルタミン酸を無害なグルタミンに変換する酵素。

(注4)てんかん:
様々な原因によって起こる慢性脳疾患。有病率は0.5~1%程度とされ、乳幼児期から高齢期まで幅広く発症する。大脳の神経細胞の過度の興奮によって繰り返し起こる発作を特徴とする。

(注5)Hippoシグナリング経路:
細胞の成長や臓器の大きさを調整するシグナル伝達経路。過剰な細胞増殖を抑えるブレーキとして働く。

(注6)YAP(Yes-associated protein):
Hippoシグナリング経路下流の転写補助因子で、細胞の増殖や生存を制御する役割をもつ。

 

詳細はこちら(新潟大学ホームページ)

 

研究成果発表論文
掲載誌:Communications Biology
論文タイトル:Ammonia reduces glutamine synthetase expression in astrocytes via activation of Hippo-YAP signaling pathways
著者:Yusuke Nasu, Sari Kishikawa, Mamiko Imai, Nozomi Yokoyama, Izumi Iida, Koichi Tabeta & Miho Terunuma
doi:10.1038/s42003-025-09191-5

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