摂食嚥下リハビリテーション学分野

分野長  井上 誠

inoue@dent.niigata-uj.ac.jp

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教育内容

加齢歯科学 Geriatric Dentistry
摂食嚥下障害学 Dysphagia Rehabilitation

研究内容

当分野では,咀嚼・嚥下に関する機能研究を行っています.
ヒトを対象とした研究では,咀嚼や嚥下運動における口腔咽頭の機能連関メカニズムの評価および解明を目指し,嚥下関連筋の運動や口腔咽頭感覚刺激に伴う大脳皮質感覚運動野の活動の評価,および咀嚼嚥下運動の筋活動,顎運動,その嚥下運動画像の評価を行っています.生体側の記録に際しては,電気生理学的,運動学的,画像診断学的手法である,筋電位や経頭蓋磁気刺激,モーションキャプチャー,嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査記録等を同時記録しています.さらに食品工学的アプローチとして,テクスチャーアナライザー,粘度計,水分計を利用して食品や食塊の物性・成分評価を行っています.これらの研究を通して,舌運動や咀嚼運動時の嚥下関連筋の筋電位測定,または口腔への温度刺激に伴う大脳皮質感覚運動野の変化,唾液分泌量の変化が咀嚼嚥下運動に及ぼす効果について報告しています.更に,産学連携にも注力しており,2023年度は,亀田製菓株式会社,日清オイリオグループ株式会社,株式会社MTGをはじめとした企業と共同研究を行っています.
動物を対象とした研究では,健常動物を用いた咀嚼と嚥下の神経メカニズム解明の研究に加えて脳梗塞や慢性閉塞性肺疾患など病態モデル動物を用いたトランスリレーショナルリサーチも行っています.咀嚼と嚥下の機能連関の検証,嚥下誘発に関わる末梢受容体や中枢神経回路の同定,嚥下運動に関わる神経・筋活動の評価,食形態の違いがもたらす咀嚼機能の発達変化などです.研究手法としては,行動学的,電気生理学的,免疫組織学的,神経薬理学的,生化学的アプローチを行っています.以上の研究を通して,近年,嚥下関連筋の再検証や発見,咀嚼・嚥下時の顎反射や関連する神経ネットワークの興奮性の変調,抗コリン薬がもたらす水誘発嚥下の促通効果,ATP感受性Kチャネルを介した嚥下誘発促進のメカニズム解明を発表しています.
摂食機能に対する口腔機能の重要性の根拠を提供し,摂食嚥下リハビリテーションにおける歯科のプレゼンスを高めて,臨床における新たな基盤を確立していきます.
図1.咀嚼,食塊形成,移送時の咬筋,舌骨上筋,舌筋の筋電図記録の一例.
図2.嚥下中枢からの入力ならびに運動ニューロンの同定により嚥下筋であることが明らかとなった顎二腹筋後腹.
図3.KCl溶液は生理食塩水や水投与時よりも嚥下反射誘発回数が多い.末梢の神経応答からも明らかであったことから関連する受容体の発現を明らかにした.

臨床内容

摂食嚥下リハビリテーション
脳血管障害,頭頸部腫瘍や食道癌,神経筋疾患をはじめとする疾患に伴う摂食嚥下障害患者に対する治療を行っています.入院患者を管理するのは摂食嚥下機能回復部,外来患者に対しては口腔リハビリテーション科が担当し,嚥下内視鏡検査,嚥下造影検査をはじめとする検査・診断の後に必要な摂食嚥下リハビリテーションおよび口腔機能管理を含む歯科治療を行います.新患患者数は年々増加し続けており,更に,近年の患者の高齢化を背景に,摂食嚥下障害の原因疾患や病態が多様化,複雑化しています.これらの患者をサポートする上で多職種連携は欠かせず,主治医,リハビリ医師,療法士,看護師,管理栄養士と定期的なカンファレンスを行っています.当科の専門スタッフは歯科医師,歯科衛生士,言語聴覚士ですが,歯科として口腔機能を重視し,多種職と連携を取りながら最適なリハビリテーション医療が提供できるように日々努力を重ねています.
近年の業績
1.喉頭蓋反転不良と食塊移送不良因子の評価(T. Suzuki et al. Dysphagia. 37(6):1858-1860. 2022)
2.脳血管疾患患者の経口摂取改善に寄与する口腔機能評価(S. Kulvanich et al. J Stroke Cerebrovasc Dis.31(5):106401. 2022)

口腔機能低下症
2016年に口腔機能低下症の臨床が保険診療として収載されて以降,本院歯科でも2018年6月には歯科口腔機能検査室が整備され,口腔リハビリテーション科を中心として,歯科外来受診患者を対象に口腔機能低下症の評価,診断および管理を行っています.
近年の業績
1.歯科受診患者の口腔機能低下症の評価の実態(W. Onuki et al. J Oral Rehabil. 48(10):1173-1182, 2021)
2.口腔機能低下症の管理の効果(W. Onuki et al. Gerodontology. 40(3):308-316, 2023)

ドライマウス・味覚障害
口腔リハビリテーション科では,「くちのかわき味覚外来」を設けて口腔乾燥症や味覚障害の対応を行っています.,唾液分泌量測定検査,唾液腺の画像検査,味覚検査,血液検査などを通して,薬剤の副作用,ストレス性,シェーグレン症候群,放射線治療後など(以上口腔乾燥症),亜鉛不足,薬剤の副作用,ストレス(以上味覚障害)などの原因を突き止めた上で治療を行っています.
近年の業績
1.薬剤性の口腔乾燥症に注目した臨床データ(K. Ito et al. PLoS One. 12;18(1):e0280224, 2023)

分野のホームページ

https://www5.dent.niigata-u.ac.jp/~dysphagia/index.html

附属病院のリンク

https://www.nuh.niigata-u.ac.jp/departments/dentistry12

社会貢献

1.にいがた摂食嚥下障害サポート研究会
摂食嚥下障害患者を支援するため,介護食品・食器具や口腔衛生等に係る企業との産学連携により,2009年からにいがた摂食嚥下障害サポート研究会を運営しています.2023年12月現在の会員数は個人会員約280名,企業会員18社,団体会員3団体であり,下記の活動を行っています.
1)講演会開催
医師,歯科医師,看護師,管理栄養士など様々な職種の講師を迎え,年2回の講演会を開催しています.2022年度からは会場とオンラインでのハイブリッド形式で開催しており,新潟県外からの参加も多数受け付けています.
2)食の支援ステーション運営
新潟大学医歯学総合病院アメニティーモールバス待合室内に,食の支援ステーションを設置し,介護食品・食器具や口腔衛生用品等の展示と助言を行っています.
3)摂食嚥下セミナー
地域一般住民を対象に,新潟大学医歯学総合病院アメニティーモール研修室にて,月2回のセミナーを開催しています.(2020-2023年度は,コロナ禍のため中止中)
詳細は下記ウェブサイトをご参照ください
https://www5.dent.niigata-u.ac.jp/~dysphagia/support/

2.ばりあふりーお食事会
摂食嚥下障がい児およびその家族に,外食を楽しむ機会を提供するための活動をしています.毎年1回,ホテルが提供するフルコース料理を,普通食,後期食,中期食,初期食,注入食の5段階で提供し,摂食嚥下障害を専門とするスタッフが食事介助や助言も行っています.新潟県内の特別支援学校教諭らの取り組みを,2009年からにいがた摂食嚥下障害サポート研究会が共催となって開催したもので,2023年度からは当分野が主催しています.2023年には内閣府の第1回「未来をつくるこどもまん中アワード」を受賞しました.
今後は,外食可能な飲食店の増加を目標として,調理師や栄養士,学生等の人材育成も行う予定です.

3.摂食嚥下専門開業歯科医師養成
新潟県内の地域における要介護高齢者は増加の一途であり、高齢化率は33.6%と全国平均を大きく上回っています.摂食嚥下障害を有する要介護高齢者は全体の約 20%、さらにその4割は在宅の要介護高齢者とされていますが,在宅や高齢者施設では,摂食嚥下障害に対する認識の不足から,正しい評価や判断に基づく食支援が得られていない可能性があります.以上を背景に,当分野では2012年から摂食嚥下治療の専門歯科医養成のための研修を開始し,2015年からは県歯科医師会の支援養成事業・摂食嚥下治療登録医養成研修を行っています.
詳細は下記ウェブサイトをご参照ください
https://www5.dent.niigata-u.ac.jp/~dysphagia/clinical/ve_doctor.html

4.摂食嚥下障害の在宅診療システムの構築
医療資源にアクセスが困難な摂食嚥下障害患者への大学(専門診療医)からの指導や,関連多職種の情報連携を円滑に行うための在宅診療システムを構築し運営しています.在宅診療医が摂食嚥下の評価等を行い,専用のアプリに入力すると,チームとして登録されている医師,看護師,歯科医師,言語聴覚士等が情報にアクセスすることができます.また,大学所属等の専門診療医からの助言を受けることが可能です.
2023年度から運営を開始しており,将来的には,日本全国で使用可能な遠隔医療支援アプリケーションの開発と普及を目指しています.
詳細は下記ウェブサイトをご参照ください
https://www5.dent.niigata-u.ac.jp/~dysphagia/clinical/oishien.html

主な研究テーマ図